2012年11月10日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 3 <標高488m>


世の中、以前に比べて住みにくくなったというのが、ここに来る連中のトータルな意見であります。中でも『庵主様』、月に二、三度顔を見せるが、何をして生活しているのかは誰も知らない。本人がよく『年金生活者の我々は』、などと枕詞を使うので、みんなそう思っているだけで本当のところは未だに誰にもわからないのです。

今夜も7時半を過ぎた頃でした。杖をついてふらりと入って来ました。『庵主様こんばんは』とハヤマさんが挨拶をしている。『どうされたのですか?杖なんか持って』『アホ、杖じゃなか、マウンテンストック! ん〜ん これでもドイツ、レキ社の優れ物じゃで』『杖とどう違うんですか?』『杖はただの棒じゃ、これはシャフトの中に、スプリングが仕込んであって、歩いていて、疲れがうんと少ないのじゃ』

『ああ、山に登る人が持ってるあれ?』『そうじゃ、ワシにとっては、階段も坂道も山みたいなものじゃよ、まったく』。

『庵主様、お元気でしたか?』『いっしゅうさん、元気でしたよ、気持だけはね』『その後お体はどうなんです?』『はい、小康状態を保っとります』『そりゃ、まずまずですね。お寒いからお風邪にはご注意を』。
庵主様はおしぼりを手に取って額のあたりを拭いておられる。

『なに差し上げましょ』『ジンをもらおか』『どうなさいます』『ストレートで』。
『ええ〜っ、ジンストですか?』『そや、パンストとは違いまっせ』『いややわ、庵主様』。ジャモウがムクッと起きあがって、庵主様の膝のところに近寄って行く。じゃれつくように、体を擦りつけている。庵主様の紺色の作務衣がジャモウのヨダレで濡れて光っている。

『こらジャモウ!』と私が叱るが、離れない。それもその筈、庵主様のお家にも猫がいるらしい。それは本物のシャムネコらしいのだ。それも血統書付きの雌猫。ジャモウがじゃれつくのも、無理はない。そんな時・・・

『じゃまするぜ』と一人の男。ヤンピー(山羊皮)のブルゾン、白いマフラーを小粋にまいて、革の長靴を履いている。カウンターの隅に腰掛けておもむろにタバコに火を付けた。私はメル・トーメの『ナイト・アンド・デイ』をピックアップした。
『ようこそ、お酒は?』『ビールを』『領事館ビールでよろしいでしょうか?』『いいな』。余りしゃべらないニヒルな雰囲気である。ジャモウはもう庵主様の雌猫の臭いをかいだのか、安心してまどろんでいる。ダッチウエストの優れものが、良い火を揺らしている。

『失礼ですが、こちらの方ではございませんね』『ああ、気仙沼です』『遠いところから、ようこそ。庵主様、こちらの方、気仙沼からお越しだそうで』『ほう、そうですか。こんばんは、私も昔、気仙沼に二年ほどおりましたよ・・・良いところでした』。

庵主様がそう言った時、その男の顔に一瞬、なにか分からないが、戸惑いの影のようなものが過(よ)ぎった。その男はそれ以上しゃべる事なくビールを飲み、タバコを吸っている。ジャモウがのっそりと起きあがり、背を伸ばして弓反ると、おもむろにその男の傍に近寄っていく。ジャモウは人見知りが激しく、そう簡単には人間に寄りつかないのだが・・・。

特に三味線屋の辰兄いの傍へは、全くと言っていい程である。それは殺されていった三毛猫の断末魔の叫び声が彼には聞こえるとでも言うのだろうか。ところが庵主様には、まるで猫がアケビに酔うように擦り寄っていく。シャムの雌猫は絶大なる影響力を発揮するものである。その時のジャモウは、発情している事さえあった。それを見て、疾風真麻さんは、『キャー』といって赤面したのであった。

『お前そんな、年か!?』と言って辰兄いが揶揄した。ジャモウは、いつまでも庵主様の膝を離れなかった。私は、庵主様こそ日々その雌猫を『猫かわいがり』しているのだろうと思った。いやはやまことに霧に包まれたようなお人である。

白マフラーの男は、ジャモウを気にもかけず飲んでいる。私は明石蛸の薄造りとわさび醤油を酒の肴に出してみた。男はそれをじっと見ていたが、舌の上にのせて大きく頷いた。小一時間ほどいただろうか、金を置くと軽く会釈をして逃げる様に出て行ってしまった。

さあ、ちょっと人生の裏街道を歩いているような、こわもてのお兄さんが登場です。庵主様と気仙沼の関係は?その白マフラーの男の引きずっている影とは?『ジャズパブ 維摩』に港町神戸のクリスマスが近づいています。



2012年11月9日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原混声合唱団定期演奏会 <標高487m>


【 第33回 妙高高原混声合唱団定期演奏会第1部のご報告 】

『妙高高原音楽の夕べ』と題して 混声合唱団の定期演奏会が11月8日 妙高高原支所にて夜6時30分より開催されました
午後から雲も切れ 暖かい日差しが周りの紅葉を一層際立たせていました 今回は賛助出演として男声合唱 メイル・クワイア 3 1/2の皆様方と 私どもの合唱団指揮者 古川 郁先生のご令嬢 三姉妹によるピアノ演奏が素晴らしい華を添えて下さいました 心より感謝申し上げます


妙高高原支所より遥か妙高山を眺めますと 谷筋には雪が積もりいよいよ本格的な冬の到来を感じる夕方でした


第一部は混声合唱団の出演で幕を開けました 平日の夜にもかかわらず多くの方々のご来場を得 厳しかった練習の苦労も吹き飛んでしまいました
各パートの持ち味を生かして精一杯歌ったつもりですが果たして如何だったでしょうか?

メイル・クワイア3 1/2         指揮:福田 伊治

1. いざ起て戦人よ       作曲:グラナハム  作詞:藤井 泰一朗
2. 里の秋           作曲:海沼 実   作詞:斉藤 信夫
3. 男声合唱組曲「旅」より 旅立つ日(アカペラ)作曲:佐藤 眞 作詞:田中清光
4. からたちの花        作曲:山田耕筰   作詞:北原 白秋
5. バイカル湖のほとり ロシア民謡 訳詞:中央合唱団 編曲:小山 章三
6. アヴエ・マリア   公教会祈祷文(ラテン語) 作曲:アルカデルト
 
男声4部合唱 メイル・クワイア3 1/2の演奏は 重厚なハーモニーに聴くもの全てが痺れたことでした 混声合唱とはひと味もふた味も違ったハーモニーの素晴らしさに酔いしれました 友情出演まことに有り難うございました

次回は第2部のご報告をアップする予定です
(庵主の日時計日記:歓びの発見)より

2012年11月7日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・JR大阪駅周辺 <標高486m>

【生まれ変わったJR大阪駅】

阪急電車 大阪梅田駅からJR大阪駅に広がる一大商業エリアは素晴らしい景観に生まれ変わっていました
従来からある大丸百貨店の近くには三越伊勢丹が進出していました。人気のルクア大阪 ヒルトンプラザウエストや阪神百貨店 ヨドバシカメラなども元気いっぱいでしたよ


センスの良い店が並んだ回廊を歩いてJR大阪駅の方に向かいますそこにはアトリウム広場や時空の広場が訪れた人たちに非日常の世界を提供してくれるのです まさにサプライズの連続でした



JR大阪駅をまたぐように大阪ステーションシテイーがあります イベントが開催出来る空間と ライブショーなどの舞台もあり中心にはカフェテリアが出来ていました



JR大阪駅を見下ろすかたちで レストランの野外席に座ってみました ひっきりなしに出入りする列車や電車を眺めていると 乗降客ひとりひとりの行動が 人生の『一瞬の今』を切り取っているかのような『厳粛な営み』に感じられたものでした 

(庵主の日時計日記:歓びの発見)より

2012年11月5日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 2 <標高485m>


『いっしゅはん』、辰兄いは私の事をこのように呼ぶ。『ジャモウはいつ来てもワイには懐きよらんな』『そらそうやろ、三味線屋ちゅうの、よう知っとるさかいな』と私。『せやかて、こいつは三毛とはちゃうで』『三味線ちゅうのは、シャムではあかんのかいな?』『あきまへんな。三味線の胴には三毛がピカ一や、それも雌の腹の皮でっせ』。

ジャモウは二人の会話に耳をピクピク動かしながら聞いていたが、どうやら安心したのか眠りについたらしい。クヌギの薪束の上に小さな毛布を敷いてもらって彼はシシリーの港町の夢でもみているのだろうか。
『いっしゅはん、デーク・エリントンのA列車で行こう頼むわ』。彼のお気に入りの一曲である。ジャモウがうっすらと目を開けて、『またか』というような仕草をしたが、辰つあんは気付いていない。

『酒は?』『ハイボールやってんか』私が準備する間にいつものパイプを取り出して、もうくゆらしている。ジャモウは不思議と煙草の匂いは嫌がらない。それよりも、まとわりついてくる煙を追う仕草さえ見せる。
ひょっとしたらシシリーの港のバーもこんな感じだったのではと、あらぬ幻想を抱いて私は一人頷くのである。

Good Evening.ハ〜イ』と言いながら、薔薇の花束を持って入ってきたのは、自称タカラジェンヌ『疾風真麻』(はやかぜ まお)さんである。『いっしゅうさん、こんばんは。あれもうやってんの、辰兄い』『悪かったなあ、ハヤマさん』。辰兄いは疾風さんの事をこう呼んでいる。
『は〜い、マスター。プ・レ・ゼ・ン・ト』。と言って、深紅の薔薇を恭しく差し出す。まるで、ヴルサイユの薔薇の芝居のようにである。『メルシ、オスカル・ジェルジュ』とすかさず辰兄いが受ける。
三人が揃って笑ったものだから、ジャモウが驚いて頭を擡げてこちらを見た。『ごめんね、ジャモウちゃん。ほら君にもおみやよ』。と言ってハヤマさんは、ポケットからビーフジャーキーを取り出して鼻先に持って行く。

ハイボールが出来たところで、ハヤマさんは辰兄いにもジャーキーを渡す。『おおきに、しゃあけんどワイは猫と一緒かいな』『辰つあん、猫と仲良うしいや。来世の事もあるんやで』『いっしゅはん、怖いこと言っこなしや』。いつの間にか『A列車で行こう』が終わって、また維摩に優しい、静けさが戻ってきていた。

疾風さんは、なにか台本のようなものを取り出して読んでいる。辰兄いは、パイプのボウルの中をダンパーで押さえながら、競馬の出馬表に赤鉛筆を走らせている。私はドアーを少し開けて煉瓦路を眺めた。

暗い路地に街灯がポツンと一つ灯っている。潮の香りとともに、船の汽笛が聞こえて来る。明日も天気だろうと勝手に決めて店に戻った。ジャモウはまだ、ジャーキーにじゃれついている。

二人目のお客さん登場。疾風真麻さん、いい娘ですよ。是非一度会いにいらして下さいよ。ああ、その時、ビーフジャーキーをお忘れ無く。皆さん今日も一日ご安全に。維摩(ゆいま)、主人敬白。

2012年11月4日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・雑木林の紅葉 <標高484m>



急激な冷え込みで 白樺林の紅葉もすすみました


今朝5時20分の気温です 室内が15.2℃ 外気温度は1.1℃
いよいよ本格的な冬に入って行くようです 来週中にはわが家の周辺にも雪が降るでしょう

(庵主の日時計日記:自然と私)より

2012年11月3日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・秋彩の道 <標高483m>


この道を通って貴方は訪ねて来てくれましたね 幾度か立ち止まって深呼吸をしながら 一歩づつ

高原にはミヤマアカネが飛び交い空には鷹が遊弋していましたね あの日は高原にしては珍しく暑い午後でした 一緒にオープンデッキに座って ハーブテーを飲みながら来年の春の話をしたものです 笑いながら 頷き 森を指差し 大きく息を吸って 風が頬を撫でて過ぎて行くのを感じていましたね

でも貴方はもうこの世にいません 昨日お別れをしてまいりました ランをいくつか手向けながら はからずも泣いてしまいました 春の約束どうしようか・・・と呟きながら傍を離れました

あのあと妙高山は真っ白に変わりましたよ 雪が麓まで降りて来たのです カップ酒をひとつ買って 坂道を一時間かけて歩きました ほんとは貴方とこうして歩きたかったのです

でも春の約束はきっと果たしますから 心安らかにお眠り下さい
合掌 信仰の友に捧げる詩

(庵主の日時計日記:生きて愛して)より




2012年11月1日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 1 <標高482m>



旧居留地煉瓦路 西入る  『ジャズパブ 維摩』

【プロローグ】

『ジャズパブ 維摩』(ゆいま)と読みます。釈迦の弟子で、在家のままで悟りを得たと言われている『維摩居士』。その名前を付けた神戸の小さなジャズパブで繰り広げられる人間模様。涙あり、笑いあり、ちょっと怖いお話、それに男と女の色模様。どの様な展開になるかはボクにもわかりません。一週間に2回程度のアップです。全てフィクションです。それではどうかお楽しみ下さい。(平成19年秋)

☆ ★ ☆

私は、『旧居留地煉瓦路 西入る』でジャズパブ維摩(ゆいま)の主人と言うのでしょうか、まあ外人さんにはマスターと呼ばれています。いずれにしてもそこの『あるじ』であります。自己紹介をしておきましょう。年齢は61歳。名前は、井筒 修(いづつ おさむ)、常連は『いづしゅう』と呼ぶ。略して『いっしゅうさん』が通り名であります。

この神戸海岸通りの小さな一隅に店を構えたのは、今から35年程前の事でした。地元の大学を卒業して、しばらく大阪の大手薬品メーカーに勤めていましたが、ある事情で会社を辞めて、生まれ故郷の神戸の地で小さな『隠れ家』の様な店を持つことにしたのです。

この話には、実を言うとスポンサーがいたのです。この神戸の地で手広く真珠の商売をしていた私の叔父がその人でした。叔父は私を大学まで出させてくれたまさに親代わりでありました。と言うのは私の両親は、今から45年ほど前にある事故で帰らぬ人となったのでした。

その時から叔父は私を自分の家に引き取って、高校、大学と全ての面倒を見てくれたのです。彼の奥さん、私にとっては叔母になりますが、人偏に善人と書いた様な優しい女性でした。市の孤児院などにも物心両面の援助を欠かない陰ひなたのない人でした。
そんな中で育った私は、今から思うと幸せ者でした。両親と若くして別れましたがその寂しさ、悲しさを、カバーして余りある叔父と叔母の愛に守られてここまで来た男でした。まあ自己紹介はこれくらいにして、相棒を紹介しておきましょう。

ほら、そこの薪ストーブの傍で一際長く寝そべっているのがそれです。『おい、ジャモウ起きてご挨拶だ』。そう言ってわたしは、ジャモウに声をかけた。変な名前だとお思いでしょうが、毛足が長く、モジャモジャであるから『ジャモウ』と呼んでいるのです。本人(?本猫?)も気にいっているようで、私が声を掛けると一回目はまず無視をする。二回目にやっと眠そうな顔を上げる。シャムがかかった雑種ではあるが、お客の中の猫オタクに言わせると、とても珍しい猫だとの評価を頂いている。彼(言い忘れていましたが雄です)は、ある寒い木枯らしの吹く夜、閉店間際の『維摩』にソ〜ッと忍び込んできました。私が木のドアーを締めようとしたその時、まるで忍者のように音も立てずに入り込ん出来たのです。

この寒さに追い出すのも忍びないので、一晩だけと思いドアーに鍵を下ろしました。その時からジャモウの定席が、薪ストーブの横にある薪の上という事にあいなったのです。

どこで飼われていたのだろうか。港町には外国航路の客船や、商船が出入りします。これは私の想像の域を出ないのですが、そこで船員に飼われていたのが迷いだして、神戸の街に不法入国する事はないとは言えない。

客の中の猫オタクがこんな事を言った。『マスター、俺が船に乗っていた頃、南イタリアのシシリーに上陸したのよ。その時港町の居酒屋にいたのにそっくりだぜ。ひょっとすると、そいつじゃないかね』って。

まさかとは思うが、聞いていて面白い話である。出入りする客の中には、なにか訳ありで、影を引いているのもいる。それを癒しにここを訪ねてくるのかもしれない。ジャズの音色と、酒、煙草に痺れたい連中ばかりであります。

ジャモウは、彼らを睥睨しながら『しっかりしいや』とでも言っているような面持ちでじっと眠ったふりをしている。その時です、ぶ厚いドアーを押して『辰つあん』が入ってきました。ジャモウはもう構えています。ちょっと嫌いな人種らしい。なぜなら『辰つあん』の商売は、ここ三宮で三味線屋を営んでいるからであります。