アマン、ガマン、ゲロッポのお話 7
『君たちこっちへおいで』ゲロッポさんが首を振ってその場所を教えました。そこには先ほど粉ひき爺さんがこぼして行った、蕎麦(そば)の粉がこんもりと残っていました。
ゲロッポさんがみんなを集めて言いました。『この蕎麦粉(そば粉)は人間が食べるものでとってもカラダに良いとのことだ。わたしもよくは知らないが、なんでもこれを捏(こ)ねて、細長いものにするのだそうだ。』みんなはじっとゲロッポさんの話を聞いていました。
『さあ、アマン。まずお前からなめてごらん。』アマンは突然そう言われて驚きました。このようなものを食べるのは生まれて初めてです。もじもじしていますと、ホロップさんがアマンに言いました。
『アマン、とっても美味しいよ、さあ。』アマンはその声に勇気づけられて、可愛い舌をペロッと出してその粉を舐めてみました。香ばしいお乳のような香りが口の中にふんわりと広がっていきました。
アマンたちは、お母さんのお乳で育ちはしませんが、なんとなくそんな気がしたのでした。その時アマンは、生まれてすぐに離ればなれになってしまったお母さんアマガエルのことを思い出していました。
アマンが生まれたのは、山の中を流れる小川の傍(そば)でした。暖かい春のある日、ぱっと明るい光が周りを照らしたその時、アマンは柔らかいプルプルしたゼリーの中からそっと顔を出したのです。
小さな頭と尾っぽだけの子供でした。そばでお母さんが心配そうに見ていました。小さなアマンはお母さんの手できれいな水をかけて洗ってもらいました。
大きなお母さんの体が、自分の姿と違っているのを見て不思議な気持ちがしていました。アマンたちカエルの仲間はみんなそうして生まれてくるのです。
アマンが生まれて少したった頃、細い雨がしとしと降る梅雨が始まりました。この季節はアマンたちの大好きな雨の日が続くのです。草の葉っぱには、マイマイツブロ(カタツムリ)(注:1)の赤ちゃんも生まれるのです。
おおきなツブロのお父さんが光の帯を引きながら、そばの木に登って行きます。ゆっくり、ぼちぼち、そしてゆったりと。
そのころアマンはお顔の下から二本の足がはえてきたのを知っていました。きれいな水のなかに生えている草の露をすったり、緑の藻(も)をなめたりして過ごしていました。
一緒に生まれた兄弟たちもあっちの水辺、こっちの水たまりに泳いでいるのが見えましたが、その内にみんないなくなってしまいました。
<勉強の部屋>
かたつむり・でんでんむし(マイマイツブロ)注:1
みなさんは、「でんでんむし」と呼んでいますか?童謡に『でんでんむしむし、かたつむり、おまえの頭はどこにある、つのだせ、やりだせ、頭出せ』なんていうのがありますね。
かたつむりと言う呼び名は今では全国の共通の呼び名ですが、むかし京都で呼ばれていたものです。マイマイツブロは、東京地方の方言です。つぶり、つぶら、つぶろと言うのはまるい物をあらわす言葉なのです。つぶらな瞳(ひとみ)などと言いますね。
かたつむりは日本に500種類くらいいるそうです。かたつむりにはオスとメスの区別はありません。だからどれでも子どもを産めるのです。食べ物は、野菜なら何でも食べるようです。キュウリ、スイカ、レタスなどです。
みなさんも野菜をちゃんと食べて、かたつむりさんに負けないで下さいね。