2014年1月28日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・花一輪 恋の笹舟 (標高 855m)





花一輪・恋の笹舟(四十三)


道諦・歩む・八正道・正念(しょうねん)



あれからどれくらい時間が経ったのだろう。順心は気がついた時、灯の消えた部屋の中で眠ってしまっていた自分を見ていた。いたはずの尼の姿はそこにはなかった。今、何時頃なのだろう、夕方この寂夢庵に来て、尼の心づくしの雑炊を頂いた。

その時、尼が般若湯だと言って小さな湯飲みに入ったものを置いてくれたのだった。口をつけてみると、それは酒の匂いと味がした。それを飲んで、暖かい雑炊を食べたまでは覚えている。それから後の記憶が全くなかった。

どうやらその酒に酔って、眠ってしまっていたようである。『尼様・・・春禰尼様・・』と呼んでみたが何の返事もなかった。

春禰尼は、雑炊を食べて少しの般若湯を飲んだ順心が眠ってしまったのに戸惑っていた。最初風邪でも引いてはいけないと思い、自分の薄い衣を掛けておいた。しばらくして戻ってみると、順心の額には汗が噴き出ていたのだ。



衣をのけて、そっと顔の汗を拭き取った。その汗は胸の辺りまで滴り落ちて、順心の肌着を濡らしている。尼はそっとその胸をはだけた。厚い胸の筋肉が赤く染まっている。尼は静かに目を閉じて、胸の汗を拭った。そこはかとなく男の匂いがした。


順心の胸には汗に光る黒いものがびっしりと生えていた。それが春禰尼のか細い指の間で揺れるようにもつれた。夢の中に落ちているこの修行僧に、尼は言い知れない愛しさを感じて、その手をあてたまま胸の鼓動をじっと聴いていた。

はっと我に返って、襟元をもとにもどした。自分の邪(よこしま)な心が罪深い女の性(さが)のように感じられて何度も呼吸を整えた。自分の胸の鼓動も、まるで、乙女のように乱れていた。そのまま立ち上がった尼は、心許ない足どりで湯屋にいった。

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