2011年12月23日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高233m>

【P ・im P・Story】


ありそでなさそな・なさそでありそな・お話


「花厩舎一馬(はなきゅうしゃかずま)の一日」より

S嬢の真剣な眼差しは、前回の桜花賞の前々日の夜、割烹「魚澄」(うおずみ)で飲んだ時よりも一層迫力を増していた。2ヶ月ほどの間に、競馬について相当勉強したに違いない。テーブルに運ばれてきたキングサーモンの温野菜添えを食べながら花厩舎一馬は、馬を愛する女性は男を求めているとの評論を読んだことを思い出して、そっと彼女の顔を盗み見たのであった。

『はい、これ!』そう言って彼女は封筒から書類を取りだした。NETから印刷したダービーの「出馬表」(でまひょう)である。いやが上にも見ないわけにはいかなくなった。食事を終えて一馬は、その出走馬リストに目をやった。

「JRAプレミアムレース」と印刷されている。「東京優駿(第75回日本ダービー)」であり、2005年生まれの頂点へ!とサブタイトルがつく。6月1日(日)東京競馬場、芝・左2400mにて行われる。今年はフルゲートの18頭、全て牡馬(おとこ馬)の出走である。

JRAのG1・PRには俳優の佐藤浩市が起用された。彼の誕生の星座は、いて座である。この誕生星座いて座の人馬宮は四大元素の火に関係していて、「火のサイン」に分類される。

『課長、深刻そうなお顔ですこと、ちょっと怖いわ・・・』とS嬢が呟いた。花厩舎はハッと我に返って目を上げた。『ああ、ごめん、ごめん。ちょっと考え事をしていて』『またなにか閃いたの?』彼女は先日の桜花賞の予想が余りにもセンセーショナルだっただけに、その事が心から離れなかったのだ。

『いや、まだピンと来ないのだが、この佐藤浩市の誕生星座は、いて座なんだよ。そして射手座は火のサインをあらわしている』『素敵〜!佐藤さん大好き。射手座かあ・・・。そして火をあらわす。となると一頭いるわよ』そう言ってS嬢は出馬表の一頭を指さした。

『ほらここに。2枠4番、タケミカヅチ。これはカミナリ(雷)でしょ、火そのものよ』『なるほど・・・』と花厩舎課長も頷いた。よく考えると、最近の世情は大災害、それもハリケーンや巨大地震が発生している。

古い諺に言う、『地震、雷、火事、オイル』親爺の権威が失墜しているので、困りもののオイルを入れてみた。いずれにしても充分資格を持った一頭である。一馬は4番の馬に赤丸を付けた。

土曜日の勤務は、時間には縛られない。みんながいなくなった「プレミアムオーク」にはS嬢と自分の二人だけになった。一馬は今回のダービーは自然現象で勝ち馬を絞り込もうと考え出していた。なかなか次の候補が見つからない。

(明日に続きます)

2011年12月22日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高232m>

【P ・im P・Story】


ありそでなさそな・なさそでありそな・お話


「花厩舎一馬(はなきゅうしゃかずま)の一日」より

平成20年ももう半ばの月を迎えようとしていた。ある大会社のシステム部の担当課長を拝命している花厩舎一馬、なんとも遊び心満載の名前である。

今日は五月最後の土曜日、本来なら会社は休みであるが、6月末の株主総会に向けての資料整理のため朝から出勤してきたという訳だ。大都会のビジネスゾーンも土曜日のためか人通りは少ない。36階の事務所に入って、周りの景色をみて少なからず驚いたのだ。

神宮の森の緑が萌えるように目に鮮やかである。いままでこんなにゆっくりと自分の席から外の景色を見たことはなかった。日常の業務は朝から晩までパソコンとの対面ばかりで、春の桜の景色も落ち着いてみないまま、もう6月を迎えようとしていたのだ。

インスタントコーヒーを啜っていたとき、ドアーが開いて隣の課に一人の女性の姿。北欧エリア営業部に所属するS嬢が出勤してきたようだ。休日出勤とて、普段のフォーマルな服装ではない。細身のジーンズに、薄手のジャケットを着ている。そして紙で
くるんだ花束を一つ手に持っている。ちらっと見ただけだが、ピンクのバラの花が見えた。
『課長、お早うございます。お忙しいのですね』と彼女のデスクから声がした。
しばらくすると、小さな花瓶に挿したバラが花厩舎のデスクの隅に置かれた。

『おおっ、綺麗だね。モーツアルトかな・・・』『よくご存知ですね、今朝お庭で咲いていたので・・・』とS嬢は言った。『土曜日くらいゆっくり休まないともたないぜ』『課長にそのお言葉をそっくりお返しいたしますわ』と言って笑った。襟元から微かにバラの香りがした。 

広い大きなフロアーにチラホラと仕事人間の姿が増えてきた。やはり土曜日、普段あれほど鳴り続けている電話が沈黙している。花厩舎はこの静寂さが好きで、たまに休日に出勤するのである。そうこうする内に正午になった。その時S嬢が近づいてきた。『課長お食事ご一緒しません?』『ああ、もうそんな時間か、じゃあ外にでるか』そう言って二人は高層ビルから、新緑で噎(む)せかえる地上に降り立った。

『北欧風のレストランが、先週オープンしたの。行ってみません?』『そりゃいいね、お願いするよ』二人は少し歩いて、大きな樫(かし)の木のあるレストラン「プレミアムオーク」に入った。土曜日の昼時とてけっこう混んではいたが、S嬢は奥のテーブルに進んだ。レストランの女性アシスタントに軽く会釈をして、花々の咲く小さな庭が見通せるテーブルについた。

『まだオープンして間がないのだろう。なのによく知っているね』『さっきの方、私のお友達なの。フランス語の教室でご一緒』『フランス語、習ってるの?』『ええ、言葉のなかで一番好きなの、だから』

先ほど擦れ違った女性のフロアーアシスタントが近づいてきた。なにやら二人で話していたが、どうやら今日のランチメニューの確認だったらしい。

その時、S嬢が花厩舎の目を見てそっと聞いてきた。『日曜日、日本ダービーですよね。課長のお薦めの馬、お聞きしたいわ』『そう言われてみれば、ダービーだったな。忘れていたよ』『3才のお馬さんにとっては、最高の競争なんですって?』と目を輝かせて話すS嬢は、もうすっかり競馬ファンのそれであった。

2011年12月21日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・今朝のポエム <標高231m>

【庵主のかくれんぼ】

        朝です、道です、汽笛です    

                               雪です、霧です、仄かです

                         傘です、小走り、小鳥です

                            たった一人のお留守番

                       夢です、ケロです、ツブロです



大雪の降った朝 雪の坊やがあらわれた Presented by Jun




2011年12月20日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高230m>

【糟湯酒】

さてお話を「糟湯酒」に戻そう。     「万葉集」巻五におさめられた山上憶良(やまのうえおくら)の「貧窮問答歌」は読む者にとって悲しく、酒の階級性なるものを感じさせてくれるのである。山上憶良(やまのうえおくら)の「貧窮問答歌」とはこのようなものであります。

「風まじり、雨降る夜の、雨まじり、雪降る夜は、術(すべ)もなく、寒くしあれば、堅塩(かたしお)を、取りつづしろひ、糟湯酒(かすゆざけ)、打ちすすろひて、咳ぶかひ、鼻びしびしに・・・」と続きます。

ここに言う「糟湯酒」は、酒のカスにお湯をまぜた、酒とは名ばかりの飲料で、その肴はあら塩をなめながらすするが、セキやクシャミがでてしょうがないと言う類のものなのです。今日の酒粕とは違って、まことにお粗末な代物ではありますが、奈良時代にはこれが庶民の飲むお酒だったのです。江戸時代の初期、芭蕉と同時代の伊丹(兵庫県)の俳人、鬼貫(おにつら)に「賤(しず)の女や袋洗ひの水の汁」という句があります。

伊丹は関西で有数の酒造地ですが、そこに勤める女房たちが新酒の袋を洗う仕事を引き受け、その洗った水をもらってきて亭主に飲ませる風習があったそうです。これが「糟湯酒」なのですが、当時も庶民はなかなか、良い酒にありつけなかったようで、哀しくも切ない日常が窺い知れるのです。長屋の奥に走り込んでいく一人の女房が抱えている縁の欠けた酒壺。

『おっかあ、ありがとよ。おう、そこにおいてくれ。粗塩はと・・・』『あんた、今日はちょっとした肴、用意してまっせ』『なんや、その肴て?』『タ・ケ・ノ・コ』『ええ、タケノコ!どないしてんそんなええもん』『ほら、あの法勝寺さんの竹林、あこで・・・』

『おまえ盗人したんか?』『いいええな、竹の子ですやろ地下這うてえな、横手の道に出てましたんや。そやから・・・』
『ああ、びっくりした。ほなよばれよか』

そんな夫婦の声が聞こえて来るような気がして、ちょっと書き残して見ました。そういやあ、夕べ食べたタケノコ、どこに出てたんやろ・・・?

(参考:光文書院刊、東掘一郎著・話のタネになる本)




2011年12月19日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高229m>

【糟湯酒】

こう書いて「かすゆざけ」と読む。今日日本全国に日本酒の銘柄は5千ほどあるらしい。いや、眉唾(まゆつば)な数字ではなく、本当にそれくらいの数があるのだそうだ。

その中には当然、大きな酒造メーカーとは全く関係なく、小さな山裾の蔵元で作られている地酒も多くあるはずである。私はどちらかと言うと、地方の地酒の頑なさをこよなく愛する人間である。

そんな旨い地酒(秘酒)と肴(さかな)を求めて、結構全国を旅したものであった。旨い酒のあるところ必ず良い水が存在する。それは湧き出ていると言った方が適切な表現であろう。その代表的な地域が、灘五郷といわれる阪神間の六甲山麓である。

「宮水」という、ことのほか日本酒の醸造に適した水(六甲山の伏流水)が湧く有名な酒所である。その灘五郷に私を可愛がって下さった、今は亡き長部真知様がおられた。

大関酒造社長、文治郎様のもとに嫁がれた方であった。書画に造詣の深い、優しくも凛としたまさに日本女性の鑑のような女性であった。お正月には真知先生(私はこう呼んでいた)のお住まいを訪ね、新春のご挨拶と旨いお酒を頂いたものであった。

大きなお庭があって、お屋敷の中には年代物の酒徳利やらこもかぶりが保存され、建屋全体からなんとも香しい酒の香りが漂っていたのを今でも思い出す。『貴方、投扇興(とうせんきょう)のお遊びご存知?』と先生は私に問われた。私は何のことかサッパリ判らなかった。それはどうやら江戸時代の子供や、女性の楽しみだったようだ。それについては「投扇興研究室」様のこんな説明の記事があった。


『江戸時代の遊戯の一。台の上に蝶と呼ぶいちょう形の的を立て、1メートルほど離れた所にすわり、開いた扇を投げてこれを落とし、扇と的の落ちた形を源氏54帖になぞらえた図式に照らして採点し、優劣を競う。1773年(安永2)頃から盛行。扇落とし、なげおうぎ、とも言う』

生まれて初めて高貴なと言おうか、大奥的なと表現しようか、まことに優雅な一時を体験した。1mの距離がこんなに遠いものかと思った事はない。また日本の扇の複雑な形は風を送る道具にはなっても、風を切って飛ばすのには適していない事も知った。

だからこそ奥の深い遊技である。さすが姫路のお城のお姫様ご出身の先生は上手であった。私はその時こんな事を言って先生を笑わせた。『こんな美味しいお酒を頂戴してもう充分、舞い上がっておりますよ』だから点数は低いのだと負け惜しみを言った。

先生は『そうね、貴方のは“ちどり扇”ね』と言われた。千鳥足ならぬ、ちどり扇。言い得て妙である。青春時代の懐かしい思い出である。

(明日に続きます)



2011年12月18日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・トンビ <標高228m>

【トンビ(インバネスコート、二重まわし)】




大正時代から昭和の初め頃に一大ブームとなった男性用コート

和服の上に着ると袖が楽に動かせるのが特徴

英国のインバネス(恐竜で有名なネス湖の近く)が発祥の地

以前妹から『着るならあげるよ』との連絡

寒い妙高高原の冬 是非にといただいた

さっそく衣紋掛けにつるし 帽子もブラッシュアップ

戦前の生地や仕立てはひと味違うねと「したり顔」がでた

2011年12月17日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高227m>

【P ・im P・Story】


ありそでなさそな・なさそでありそな・お話


「花厩舎一馬(はなきゅうしゃかずま)の一日」より

『それと競馬となにか関係あんの?』『おおありやで。ええか、ちょっとこの新聞見てみ』『なんで、普通の枠順が載ってるだけやんか?』
『わし、最近ちょっと頭にきてるのや。と言うのは、あの「ねじれ現象」ちゅうやつにな。なんとかせなあかんと、しょっちゅう思うてる』

『わからんか?この15番の馬』『これ?レジネッタ?小牧太の乗ってる馬やんか』『この名前や、これにわいの心の臓がビビッときたんや。ああ、大将おおきに。おお、ちめた〜。ぷふぁ〜。このビール、ばかうま』

『ほんまやし。この馬、反対に読んだらタネジレ。ちょっと変えたら、ネジレタやんか』『わかったか?ここや、この桜花賞はネジレレースやで。絶対大荒れや。わいはこのレジネッタの単勝で勝負や!!』

『単勝言うたら、一着の馬当てることやね。面白そうやん。私も乗ってええ?』『どうぞ。しゃあけんど、馬券購入は自己責任やで。外れても知りまへんで』『あほらし、そんな子供みたいな事、言いません』(影の声:今時の子供もっとかしこいで)

『あんさん方、えろうしんみりいってまんな。儲け口やったら私らにもご披露してもらわんと。なあ〜カアチャン』『さいですやん、花厩舎はんおせえてえな』

とまあこんな訳で、花厩舎課長とS嬢、割烹の大将と奥さんの4人は、騙された気分で、この15番の馬、「レジネッタ」の単勝をそれぞれ1万円ずつ購入したような事で、はい。

明くる日の土曜日、課長はNETで購入したのです。桜花賞の当日、4月13日の日曜日、課長は近所の川の清掃奉仕とかで一日中川の中。競馬の事など気にもかけてませんでした。

その晩、清掃隊の打ち上げでちょっと一杯飲んで帰ってきたのです。パソコンを立ち上げて、いつものようにE-メールの確認をやります。その時、ネット銀行から振り込みの通知が入っていました。なんやろなと思うてクリックした時、ハタと思い出した。ひょっとして、競馬当たったんと違うか?

口座の残高を見てこの課長驚いた。なんと、173万6000円も増えている。一人当て、434,000円の払い戻しと云う結果でした。

ちなみに、この日の桜花賞の成績を見てみますと・・・。
1着 15番 レジネッタ
2着 18番 エフテイマイア
3着 13番 ソーマジック

払戻金は・・・。
単勝 15番 4,340円
馬連 15-18 196,630円
馬単 15-18 334,440円
3連複 13-15-18 778,350円
3連単 15-18-13 7,002,920円(全て100円単位の払戻額)でした


早速、花厩舎一馬課長はS嬢に電話をして、割烹・魚澄へ飲みに出掛けたのでした。ひょっとして、これが縁で課長とS嬢に何かがあったりするのかも・・・それはまた今度。

(結果・成績・オッズなどのデータは、必ず主催者発行のものと照合し確認してください)

完