【P ・im P・Story】
ありそでなさそな・なさそでありそな・お話
「花厩舎一馬(はなきゅうしゃかずま)の一日」より
S嬢の真剣な眼差しは、前回の桜花賞の前々日の夜、割烹「魚澄」(うおずみ)で飲んだ時よりも一層迫力を増していた。2ヶ月ほどの間に、競馬について相当勉強したに違いない。テーブルに運ばれてきたキングサーモンの温野菜添えを食べながら花厩舎一馬は、馬を愛する女性は男を求めているとの評論を読んだことを思い出して、そっと彼女の顔を盗み見たのであった。
『はい、これ!』そう言って彼女は封筒から書類を取りだした。NETから印刷したダービーの「出馬表」(でまひょう)である。いやが上にも見ないわけにはいかなくなった。食事を終えて一馬は、その出走馬リストに目をやった。
「JRAプレミアムレース」と印刷されている。「東京優駿(第75回日本ダービー)」であり、2005年生まれの頂点へ!とサブタイトルがつく。6月1日(日)東京競馬場、芝・左2400mにて行われる。今年はフルゲートの18頭、全て牡馬(おとこ馬)の出走である。
JRAのG1・PRには俳優の佐藤浩市が起用された。彼の誕生の星座は、いて座である。この誕生星座いて座の人馬宮は四大元素の火に関係していて、「火のサイン」に分類される。
『課長、深刻そうなお顔ですこと、ちょっと怖いわ・・・』とS嬢が呟いた。花厩舎はハッと我に返って目を上げた。『ああ、ごめん、ごめん。ちょっと考え事をしていて』『またなにか閃いたの?』彼女は先日の桜花賞の予想が余りにもセンセーショナルだっただけに、その事が心から離れなかったのだ。
『いや、まだピンと来ないのだが、この佐藤浩市の誕生星座は、いて座なんだよ。そして射手座は火のサインをあらわしている』『素敵〜!佐藤さん大好き。射手座かあ・・・。そして火をあらわす。となると一頭いるわよ』そう言ってS嬢は出馬表の一頭を指さした。
『ほらここに。2枠4番、タケミカヅチ。これはカミナリ(雷)でしょ、火そのものよ』『なるほど・・・』と花厩舎課長も頷いた。よく考えると、最近の世情は大災害、それもハリケーンや巨大地震が発生している。
古い諺に言う、『地震、雷、火事、オイル』親爺の権威が失墜しているので、困りもののオイルを入れてみた。いずれにしても充分資格を持った一頭である。一馬は4番の馬に赤丸を付けた。
(明日に続きます)
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