【男達の黄昏・・そして今(4)】
真ん中に、3人の中でも一番の年長の『哲じい』と呼ばれている男性が座った。その横には『沼ちゃん』、もう一人は『徳さん』と呼ばれている男3名である。ビールは銘柄指定で、「キリンクラッシック」。肴は「イカナゴのくぎ煮」である。彼らの会話を少し聞いてみましょうか。
『ところで哲じい、製作中の仏像進んでまっか』と沼ちゃん。『いや〜、なかなかですわ』と哲じいが辛そうにこたえる。『その仏さん、行き先決まってますねやろ?』と徳さんがおしぼりで手を拭きながら言った。
『ああ、以前お世話になった方が病気なもんでな、その快癒を願っての事ですわ』『ええ話やな、きっとその人ようなるで』。ちょっとしんみりした空気が漂う。
『ところで沼ちゃん、もうメバルきてまんのか?』『せやなボチボチや、もうちょっとしたらええと思うわ』『どの辺まで遠出しはんの』『淡路島ですは』『ほな明石海峡大橋越えですか?』『ええ、ちょっと高こうつきますけど、あこらあたりまで行かな釣れんさかいね』。
『ところで徳さん、その後奥さんの具合はどうなんや』と哲じい。『はい、まあなんとか小康状態は保っておりますが』。
『心臓やったな』と、沼ちゃんがぼそっと言う。
『状況次第では入院せなあかんと思とりま』
そう言いながらふっとため息をついた。『さあ、ビールでも飲んで明るうやりまひょや。なあ徳さん』と、哲じいがその場の雰囲気を察して切り出した。『板さん、一杯どうです?』と、沼ちゃんがグラスを差し出して言った。『おおきに、せやけど私いつ出前が入るかわかりまへんよって、日中は酒飲めんのですわ』『そうでっか、残念やね』『夜7時が過ぎたらオーケーなんですわ』『7時で、のれん、下ろしまんのか』『さいでやす』。
まあ、昼の内から酒飲めるのは幸せな連中です。よほど前世にええ事してきはりましたんやろな。そこへ3丁目の交番から巡査が上がって来ました。
『おじゃまします』『ああ、島田はん。どないしましてん』『2日前、この下の4丁目の竹川さんに泥棒が入りましてな』『ああ、聞きましたは』と沼ちゃん。『竹川さんとこ、普段誰もいてはらへんよって、それ狙うてやられた様です』と、駐在の島田巡査が説明した。『ほでなに盗られましてん』と、徳さんが乗り出すようにして聞いた。『まあ現金と高級腕時計、奥さんのネックレスなんかです』『せやけど、あこ結構大きな犬いてまっせ』と、鶴さんも中に入って来る。
『それが一回も鳴かなんだそうです』と巡査。『けったいな話やな、犬てなもんは鳴くんが商売でっせ』『その犬最初になにか食い物まかれたんと違いまっしゃろか。例えばミルキーキャラメルとか』と、哲じい。
『なんでまた、ミルキーキャラメルでんねん』と、鶴さんがつっこむ。『あの飴食べた事おまへんか、くちゃくちゃ歯に引っ付いて、そら往生しまっせ』『そんで犬が口じゅう飴引っ付けて鳴けなんだ言うんかいな』『そうや』『ようそんなノー天気な事言うわ。そら落語の世界のことだっせ』と、あきれ顔で沼ちゃんが言ったので大笑いになった。
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