【ひかりと影のバラード】
京都四条河原町の一筋入ったある通り、二階に上がる木の階段、そこには小さなギャラリー『マロニエ』がある。三十を少し出た女性、バツイチで始めたお店の主人小笠原文絵(おがさわらふみえ)がいる。よく通ってくる陶芸工房『馬Q夢』(バキューム)のメンバー、北窓岳志(きたのまどたけし)二十九歳、このお話の主人公である。
夕暮れにはまだ少し早い時間ではあったが、北窓岳志(きたのまどたけし)はいつものように四条河原町辺りから鴨川の散歩道を北へ向かって歩いて行く。まわりから見たら、なんの変哲もない青年のほっつき歩きとしか見えない。それは賀茂川と高野川の合流点あたりまでで、奥に黒く見えるのが糺の森(ただすのもり)である。
ここ数ヶ月北窓は、時間があればいつもこうしてその辺りまで歩いていた。それは秋の陶芸新人コンペテイションに出品するテーマを拾いにきていたのである。彼の想念の中には、ある一つの構想が膨れあがっていた。
陶芸工房『馬Q夢』(バキューム)の仕事を始めてもう3年の月日が経過していた。自分に技術的な裏付けが欲しくって日夜それなりに悩みもした。しかしこの世界は実力第一である。人と同じ事をしていても、うだつは上がらない。そんなある夜、彼は夢の中に一つの光景をみた。それは川の中で数羽の白鷺が餌を探している。その内の一羽が鮎を捕まえた。他の鳥たちがそれを横取りしようと舞い上がり、重なりあい、水しぶきをあげて戯れている。夕暮れの残照が金色(こんじき)に輝いて白鷺の羽根を染めあげる。まるで和服の絵柄になりそうであった。
その夢に現れた華麗な舞は強烈な印象として北窓岳志の潜在意識の中に焼き付けられたのである。それからと言うものは、鴨川にその鳥たちの舞遊ぶ姿を求めて時間を作っては来ていたのである。
奇しくも今あの夢に見た光景が目の前で再現されていた。彼は瞬(まばたき)きもせず、食い入るように鳥の乱舞を眺めていた。北窓のひねる器に、その鳥たちの舞ひ遊ぶ姿が果たして描き出せるのだろうか。
人は土を耕し野菜をつくり こねあげて器に仕上げる
水(し)火(ほ)土(つち)の三要素が生命の根源だ
(明日に続きます Imagined by Jun)
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