日本旅行協会 『旅』一月号、昭和七年一月一日発行を読みながら。「バック・トウ・ザ・パースト(時を戻して)」 第 12 回
【静かな奥伊豆温泉】 棟方銀嶺
湯ヶ野温泉を振り出しに河内、蓮臺寺、下賀茂温泉と奥伊豆の温泉巡りを濟ました私は、更に、妻良から松崎に出て、仁科へ迄も脚を延ばして名勝を併せて探る氣持ちであったが、下賀茂より引っ返して谷津(やつ)温泉から峰温泉へ廻り再び天城を越えて帰ってきたのであった。
峰温泉、谷津温泉については後日、筆を改めて述べるとしてここで奥伊豆温泉巡りの筆を措くことにする。
最後に申述べたいことは、奥伊豆がまだまだ俗化されずに昔の香りを殘してゐるといふことがこの地を探る人々の誰もが認めることであり、それがこれらの温泉場の強みであるとも言へると思ふ。
熱海、伊東の如き繁華な温泉場も一つや二つは無くてならないと共に、又、下賀茂、峰温泉といった、鄙びた温泉場が殘されてあっても決して惡くはないといふことを附記して置く。
以上 この項 おわり
「民衆娯樂の理想郷」宝塚温泉
日本旅行協會昭和七年一月一日發行、「旅」の終わり近くに、「民衆娯樂の理想郷」と題して、以前私が住んでいました宝塚市の「宝塚温泉」の宣伝が一頁にわたって掲載されています。80年前の「宝塚」を知るためにも、ここにご紹介しておきましょう。
「正月は寶塚中心の行樂」との副題です。
○ 交通 大阪梅田から直通四二分、又は神戸上筒井から西宮北口經由で參ります。日曜祝祭日には直通電車を運轉致します。
○ 寶塚新温泉 有名な寶塚少女歌劇は、月花雪三組交代で、四千人大劇場にて毎日公演、中劇場の寶塚國民座、大運動場の野球戰等面白い催物は年中絶えず、大浴室、大食堂、家族温泉、寫眞室、賣店、圍碁室、理髪室、圖書室、遊戯室、玉突、納涼臺、醫局等悉く完備して居ます。新温泉入浴料は大人は二十錢、小人十錢、歌劇座席券三十錢均一であります。
○ 寶塚旧温泉は武庫川の對岸にあり。炭酸泉で、胃腸病、婦人病、神經病によく、家族温泉、貸間の設けがあります。
○ 寶塚ホテルは鐵筋コンクリート、耐震耐火の純洋式ホテルで、客室は清潔。食堂、宴會場、グリル・ルーム、玉突、酒場、理髪室、賣店、テニスコート、ゴルフ・リンクス等完備し、保養に滞在に理想的で、長期滞在の人には割引があります。此ホテルを利用して、遠近の名所を探るに勝る樂しみはありません。
○ 有馬行(乗合自動車で四十分)
有馬温泉は、寶塚から毎日定時に乗合自動車が出ます。片道九十錢、十六キロ餘を四十分で有馬温泉前に達します。
武庫川の川沿いに建てられた寶塚新温泉の全容が写真に映っています。現在のS字大橋の辺りから、下流に南口駅近くまで大温泉施設が作られています。
今年の夏 宝塚南口駅横 武庫川下流より宝塚温泉街 歌劇場周辺を望む
武庫川を渡って行く阪急電車の車輪の音は今もボクの耳朶を離れない
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