2014年10月27日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・【男達の黄昏・・そして今(2)】(標高 1004 m)


【男達の黄昏・・そして今(2)】


 時にはお互い声を荒げて、言いたくもない事を言い合うこともあろう。主人もリタイアーして三ヶ月程度は、散歩をしたり旅行に行ったり、たまにはゴルフに行くこともあるでしょう。しかしそんな事ばかりしている訳にはいかないのである。だんだんと退屈になって来る。その内、体のどこかの調子が悪くなったりで、まあこれは運動不足からくる、なんとやらシンドロームでの肥満体から来る生活習慣病かもしれないのですが。


 そんなこんなで、酒や煙草に身を落とし妻子から疎んじられる日々の哀しさ。なんて余りにも悲観的な事を書いたようではあるが、大なり小なりこんな環境下にあるのかも知れません。そんなある日、奥さんから『貴方、ちょっとお話しが』と、くればもう一巻の終わり。長年連れ添ってきた妻が、愛想を尽かして離れていく。それを止める術はない。心の中に深いキズと、空しい思いだけを残し人生の晩年を迎える事になる。

そこで、はたと気付く。妻が居なくなったら、何も出来ない自分の姿を。下着一枚何処にあるかもわからない。『風呂』『飯』『寝る』の三言しか喋らず、会社人間を貫き通してきた、哀しい男の性(さが)なのである。

 財産を妻と分割して、子供の養育費を毎月支払って、その代わり子供は妻が引き取って生活をする。残されたのは、尾羽根打ち枯れた哀れな男一人。こうなっては生きていく望みも楽しみもなんにもない。さてどうすれば良いのか。あとは呆(ぼ)けるだけである。

こういう風にはなんとしても、どんな事があってもなりたくない男達がここには居る。夕陽丘(ゆうひがおか)5丁目に住む中年の男達である。

山岡哲(やまおかてつ)、今年65歳であります。会社を63歳でリタイアーして、年金暮らし。趣味は仏像彫刻。家族構成は、妻、犬一匹。子供達は独立してそれぞれ関西圏に住んでいる。孫が2人。自動車免許有り。といった塩梅である。

上沼幸三(かみぬまこうぞう)、61歳。つい最近定年退職をした。長いこと単身赴任で各地を変転しやっと帰ってきたら定年だったというパターン。趣味は魚釣り、料理。奥さんと二人暮らし、子供は結局出来なかったので、いない。

市村徳治郎(いちむらとくじろう)64歳。つい最近まで会社に勤務していたが奥さんの体調が良くないので思い切って会社を辞めた。社長はまだ働いてほしいと言ったそうだが、そんな訳で今はなにもしていない。趣味は野菜作り。

リチャード・ラスパート。58歳。アメリカ国籍。現在ある大学の客員講師をしているが、けっこう自由がきく身である。美しい奥さんと二人暮らし。子供はいない。趣味は日本のお寺や神社を訪ねる事。それと旅行である。

深沢周八(ふかざわしゅうはち)60歳。つい最近この夕陽丘に引っ越して来た。今まで関東に住まいしていたらしい。家族は老いた母一人と聞いた。趣味は競馬。なかなかの感性の持ち主らしく、結構良い思いをしているらしい。

 さてもう一人、この夕陽丘で一軒だけのお店。それもお寿司屋を営んでいる人、明石鶴之進(あかしかくのしん)66歳。もうこの商売を初めて25年になる。去年40年間連れ添うた愛妻を亡くして今は、やもめ暮らしである。

 まさに第一の人生をほぼ終了して、新たな人生を迎えようとする男達の住む夕陽丘5丁目に今、何かが起ころうとしている。この男達の生き様は、はなはだ心許(もと)なく、不器用ではあるが、それでいてなんとなく暖かで、真剣さに満ちあふれているのである。

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