【男達の黄昏・・そして今(40)最終回】
その時天宮婦警主任が立ち上がりました。小田村敏夫を見て書類に手を掛けた時、深沢周八はそっと小田村の肩を叩きました。『小田村敏夫です。ご迷惑をお掛け致しました。宜しくお願い致します。』そう言って、天宮真智子婦警主任の前に、両手を差し出しました。天宮はそっとその手を下ろすようにしむけました。
保育園の大勢の人達に送られて、小田村敏夫は大きなバッグを肩に掛けて出て行きます。天宮婦警主任が後ろから歩いていきます。小田村が振り返って皆さんに手を振った曲がり角、そこには宝沢警察のパトカーが止まっていました。その車に乗り込んだ時、天宮婦警主任は小田村にこう言いました。『よく自首すると思い切ったわね。』『はい、亡くなった妻と真一に恥ずかしくって。』『こちら、天宮です!報告します。今夕陽ケ丘一帯に空き巣をはたらいていた容疑者、小田村敏夫の身柄を確保しました。午後3時45分、自首であります』。
深沢周八はなんとも言えない虚しさで、一人師走の風に震えながら小田村の帰って言った道を眺めていました。『おじちゃんはどこ?』と、ふ〜ちゃんが周八に話しかけました。周八はただ黙ってこの子を抱きしめてやりました。
黄昏斑のメンバーが周八を探してやってきます。園長先生も谷水アシスタントもいました。リチャード先生が大きな手を差し出しました。周八は生まれて初めて外人さんと心から握手を交わしたのでした。『皆さん長い間まことに有り難うございました。夕陽ケ丘5丁目の空き巣事件もここに一件落着しました。ご協力有り難うございました。さあこれからもう一仕事やりますか?どうですご同輩』。そう言った深沢周八の胸の中には、まるで若さを引き戻したような充実感が湧き上がっていました。山麓保育園の遊戯室には、白雪姫と七人の小人の縫いぐるみがそっと置かれていました。まるで小田村敏夫の帰りを待っているかのように・・・。横浜生まれの深沢周八、61歳の冬物語でした。 <完>
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