2011年2月8日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブ <標高24m>


【ヴィオロンとマグネット(慎次郎とロジーナの青春より)3】




ロジーナの父親は、ハーケンクロイツの紋章を付けて、特殊な仕事に従事していた。それは日本の国のある部分とも関係があったが、慎次郎の職務の範疇外であった。父はキール湾の隠された島で、新たな兵器の研究を続けていた。そしてほとんど家に帰ってこないとロジーナは嘆いた。

いつも母と二人だけの寂しい生活であったらしい。キール湾に帳が下りるまで、二人は5年近くの離ればなれの生活を語り合った。彼女から今夜は是非わが家に泊まってほしいとのたっての願いを受けた。

母親からも是非にと伝えて欲しいとの事だという。慎次郎は彼女の願いに応えてその言葉に甘える事にしたのである。

キール湾に添った運河の流れる美しい森の中にロジーナたちの家はあった。重厚なレンガ造りの古い館である。そこには50歳を越えていると聞いた母親が満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。

彼は自分の故郷の母親のことを思い出して、目頭が熱くなるのを感じた。夜の楽しい夕食が終わった頃、母親は数日前から風邪気味とかで、早めに休ませてもらったとロジーナは言った。二人で火を囲んでワインなどを飲んで過ごすひとときは、慎次郎にとってもロジーナにとっても、もう二度とやってこないかも知れない至福の時であった。

大きな柱時計が11時を告げた。その時ロジーナはそっと立ち上がって彼の手を取った。そして先に立って彼を奥の部屋に導いたのであった。慎次郎は驚いたが、だまって彼女のなすがままに任せていた。

ロジーナは、大きなベッドが置かれ古風な家具に囲まれた寝室に彼を導いた。慎次郎は彼女の心が痛いほど分かっていた。戦時下の両国、その戦雲は暗くどこまでも果てしない。まして自分たち二人の人生に対する将来の展望すら見えないのが現実の姿でもあった。

2 件のコメント:

  1. おはようございます♪
    大阪は37日ぶりに雨が降りました
    ここ何日か暖かくて春がきたのかと喜んでいましたが、週末には雪の予報がでています
    そちらはまた雪でしょうか
    素敵なお話、また楽しませていただいています
    ではそろそろいってきます~
    かすみ草

    返信削除
  2. かすみ草 様

    こんにちは。お元気でお仕事やっていますか?

    乾燥しきっていた大阪も少しは助かりましたよね。

    あなたの花粉症もちょっとはましになったかもね。

    こちらはまた雪模様です。

    あすから明後日にかけてが本格的に降りそうです。それを過ぎればやっと

    春の足音が聞こえてきそうです。今年は雪割草の群落を見に行く

    手はずを整えております。ではまた、お元気にて。

    返信削除