【夢と現(うつつ)は紙一重】 完
『気のせいか?』と思い直して、風呂を出ました。由美が隣の寝室で化粧を落としているようです。寝室には大きなダブルベッドがあります。私が寝室に入ると由美が風呂に入るのでしょうか、部屋を出て行きました。
私は大きなベッドに大の字になって倒れ込みました。ふんわりとした何とも言えない、まるで雲の中で寝ているようです。でもどことなく藁(わら)の臭いがしているのを感じながら眠ってしまったのです。
何時間ほど寝たのでしょうか、喉が渇いて起きあがりました。横では由美が気持ち良さそうに眠っています。私はメガネを探して隣の部屋へ水を飲みに行きました。やはりそれでも『獣』の気配が残っているのを感じるのです。
水を飲んで、暫くソファーに腰掛けて一服付けました。大きく煙を吐き出した時、どこかで『クスン』という声がしたようでした。なにかいるのかな、と思って見回しましたが何もいません。そりゃそうですマンションに動物はいないでしょう。
もう一寝入りしようと思って、寝室に戻りました。由美の横に滑り込んで体温で暖めてもらいました。その時なにか足にさわる物があるのに気がつきました。おそるおそる手で触ってみると、それはゴワゴワとした獣の『尻尾』のようです。
ベッドライトに浮かび上がったのは、太い、どてっとした『犬の尾っぽ』ではありませんか!それは由美のお尻から出ていました。さては、さっきからなんか『獣』の臭いがすると思っていたがこれがその正体やったのか?
『そや、このマンションは、はなからおかしいと思てたんや』そう独り言を言って、逃げる事にしたのです。服を着て、そろっとドアを開けて外に出ようとしたその時、大きな真っ黒な犬が飛び出してきて私の足にかぶりついたのです。
『ひや〜、助けて〜〜』と叫んだその時、『ちょっとあんたどないしはったん?』と女性の声。『由美、由美はどこに行ったんや?』『あほっ、何寝ぼけてまんの。ここは家でっせ』『ほなさっきのは夢かいな』
『なんであんな大きな犬が寝てたんや?それにしてもえらいハッキリした「夢」やったな・・・。ああそうか、場所が中山寺だけに安産の守り神『犬』が主役やったんか。ところで由美は一体どこへ行ったんやろ?由美・・』
『あんたさっきから、ゆみ、ゆみ、てなんでんねん?うち花江でっせ。ひょっとしてええ女でもでけたんと違いまっか?』『ああ、お前かいな。ごきげんさん』『なにがごきげんさんや、あんたどんな夢見てたんや?もう今日は酒抜きだっせ!』『そんな無茶な、かあちゃん堪忍、一合だけ、な、な、ええやろ』『あほな事ばかり言うてたら、しまいに離婚だっせ!!』
が〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。
これをもちまして、『夢と現(うつつ)は紙一重』完結です。どちらさんも夢でおなごや男はんの名前、呉々もお呼びにならんようお気を付け遊ばせ。庵主敬白
ボクの大好きな友達の「モカちゃん」Imagined by Jun