【宮中歳時記・一月の宮中行事】
皇居の野鳥
皇居は、野鳥にとっても、都内で残された数少ない楽園のひとつです。先帝陛下(昭和天皇)は、野鳥の住みかが次第に少なくなっていくのを心配されていました。このため、以前から数多くの巣箱が皇居の樹林の中につけられたのです。
その数は、約二百五十。シジュウガラ用、ムクドリ用、オシドリ用と、大きさで三段階に分けられていました。これらの巣箱は、シジュウガラとオシドリがその多くを使用していましたが、そのほかスズメなどの鳥もこれを住みかとしているのです。
それだけではありません。皇居内には、野鳥が好んでついばむ実のなる樹木が数多く生えています。
皇居内には多数の濠(ほり)があって、野鳥に格好の水飲み場や水遊び場を提供しています。そのなかでも、吹上御苑内にある大滝から流れ出るせせらぎは、苔むした岩々や小石の間を流れて、野鳥の最良の憩いの場となっているのです。
この大滝は、高さが約10メートルもあって、六代将軍徳川家宣のころに建てられた滝見の茶屋(現在の観瀑亭)から、はるかに眺めることができたほどに古い歴史があって、今も夏にはホタルが飛びかい、晩秋にはカワセミが石の上でコバルトブルーの背を見せながら一休みしているのです。
こんなに、居心地のよい環境であれば、居着く野鳥もふえるのは当然のことでありますが、そのうえ季節になると帰るべき渡り鳥が居座りを決め込むような「無法者」も出てきてしまったのです。
皇居の中も通勤電車なみのラッシュを迎えようとしているのです。さらに困ったことに、この数年来、外来者のインコまでが、集団をなして飛び回っています。
なにしろ声高に巨木の梢から梢へとたいへんなスピードで移動するものですから、その正体がつかめなかったが、やっとこのごろ、ワカケホンセイインコということがわかったのです。南方からの闖(ちん)入者ということになるわけです。(入江相政著・宮中歳時記謹載)
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