無念!拾圓紙幣の犠牲
房州の某海水浴場地のホテルで———
これは、友人の受難記。所謂、笑へぬナンセンスの一つであらう。
相思の女友達を携えて、胸を、わくわくさせながら、『茶代廢止———絶對御無用に願ひます』と書かれた入口の貼札を横眼で睨んで、悠然とホテルの敷居をまたいだ。
良き鴨とや、主人直々に宿帳持參のお世辭だらだら。この時、S氏ブルヂョア然と、拾圓紙幣一枚を主人の前に押しやり、主人とアミとを半々に見ながら、
———君、甚だ僅少だが帳場の方へ。と、主人紙幣を手にしながら一寸當惑顔。
———ヘエ、有難う存じます。が、御承知の通り手前共では本年から、茶代は絶對に頂戴致しません方針で・・・・
———フフン、それは・・・・
———而し折角の思召し・・・・
———エ?
———是は茶代でなく、雇人共に頂戴させて戴きます。ハイ、實にどうも多分に・・・・
———・・・・
———君ッ、房州へ行っても、絶對にあのホテルはよせよ!
畜生奴!
友人は、後日心から憤慨した事である。
(庵主の一言)
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サロメチールは、佐藤製薬株式会社が販売・製造する鎮痛剤である。まことに息の長い商品である。1921年(大正10年)に東京田辺製薬株式会社(現・田辺三菱製薬株式会社)から発売された。元はフランスで同時期に発売された「ボーム・ベンゲ」軟膏に、東京田辺製薬(田辺元三郎商店)がサリチル酸メチルが主成分であることからその開発をはじめ、また粉石鹸をベースにしたべとつきの少ない軟膏作りも並行して開発し、25グラムチューブ入り「サロメチール」が発売を開始した。商品名のサロメとはサリチル酸、ロイマチス(リウマチ)、メチルのそれぞれのカタカナの頭文字から取ったものである。
より注目されたのが1937年竣工の後楽園球場の外野フェンス広告にそれが掲示されたことで、その後東京ドームに移行しても長年に渡り看板を提供し続けた。ウィキペディア(Wikipedia)参照。
(庵主の思い出日記:時を戻して より)続きます
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