2012年6月3日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高364m>


アマン・ガマン・ゲロッポのお話 29

コットンさんは、風のあまり当たらない谷間の岩陰にそってゆっくりと飛んでいきます。アマンもガマンもその銀色の羽根の付け根の素晴らしい筋肉に見とれていました。
この翼(つばさ)のもつ力で遠く北アメリカのアラスカやカナダまで飛んで帰るのです。それも大きなハクチョウやヒシクイの群れに混じって、ただ一羽でついて行くこともあるのです。高い何千メートルもあるような雪の山も越えて行きます。そして海また海の波間も、時にはその波の飛沫(しぶき)が体にかかるほど低く飛ぶ事だってあるのです。

アマンはコットンさんの銀の羽根の中で、今度は本当に眠ってしまっていたのです。ガマン君がその手をしっかりと握って、二度と空に飛んで行かないように必死で踏ん張っていたのでした。

大きな樅の木では、心配そうにツバサ君のお父さんとお母さんが木のてっぺんに止まってみんなの帰りをまっていました。下の木の穴では野ウサギのホロップさんも、アマンやガマンが余りにも遅いので、穴から出てきて樅の木の上の方を見つめていたのです。

『母さんや、あれはコットンさんじゃないか?』『そうですね、コットンさんのようだわ』『後ろからやってくるのは、ツバサだ!』『ほんと!コットンさんに連れて帰ってもらったようね』。だんだん大きくなってくるコットンさんは、静かに樅の木の太い平たい枝を選んで降り立ちました。

白雁たちは、いつもは湖や池の水面に飛行機が滑走路(かっそうろ)に降りるように着水するのです。だから、普段は木の枝にはとまりません。でもこの時コットンさんは、みんなが待っている木にとまってくれたのでした。

『危ないところだったな。みんな大丈夫か?』コットンさんが言いました。ツバサ君のお父さんもお母さんも何が起ったのかまったく分からない様子でした。

ツバサ君が、大きな目をくりくりさせて、一部始終を話ています。アマンもガマンもその時の事を思い出してなんども泣きそうになっていました。

『あの山の近くには行かない方が良い。私も若い頃同じようにこわい目にあっているのだよ』とチャバさんが話しました。『コットンさん、みんなを助けてくれて有り難う』『わたしはあの頃山の上の気流を感じるために飛んでいたのだよ。その時、ツバサ君に出会って驚いたってわけさ。じゃあ、これで失礼するよ。これからアラスカまで一飛びだ』。

そう言うとコットンさんは、大きく羽根をひろげて空中に飛び上がっていきました。アマンとガマンは必死に手を振ってコットンさんにサヨナラをしました。

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