アマン・ガマン・ゲロッポのお話 33
ブンブンが大きな岩を目指して飛んできたのを、ガマンは水の中から眺めていました。澄み切ったきれいな水を通して、蜜蜂が何かを掴(つか)んで飛んでいました。その姿がユラユラと映っています。ガマンはそっと水面から目を出しました。
『アマガエルさ〜ん、お届けものですよ〜』とその蜜蜂は言いました。ガマンは、岩の上にのぼって手を振りました。『これ、イモリの奥ちゃんから頼まれたんだ、リンゴの蜜だよ。子供が生まれたのだって?』とブンブンが言いました。
ガマンはイモリの奥ちゃんの事を思い出していました。去年、あのバイカモの揺れる小川で仲良くなったのでした。たしかリンゴ園の池にすんでいると言っていました。
あの日、ガマンが深い水の底からつかんできた、翡翠(ひすい)を奥ちゃんにも一つあげたのでした。アマンに子供が生まれた事を風の便りに聞いた奥ちゃんが、お礼に蜂蜜をプレゼントしてくれたのです。
『ブンブンさん、有り難う。イモリの奥ちゃんに宜しく伝えてね。また遊びに行くって』『じゃあ、ここに置くよ』そう言ってブンブンは、ゆっくりと岩の上にホバリング(注1)しました。そしてそっとスズランの蜜籠(みつかご)を降ろしました。
体が軽くなったブンブンは、ふわっと空中に高く浮かび上がりました。その時優しい風が吹いてきて、一気に大空高く飛び去っていったのです。『さようなら〜。アマンちゃんに宜しくね〜〜』そう言っている声が、ガマンにもかすかに聞こえていました。
ガマンはその蜜籠を口にくわえて、アマンのいる部屋まで運びました。リンゴの花の素敵な香りが、部屋一杯に広がりました。アマンは驚いて目をパチクリとしています。ガマンは、さきほどのブンブンが運んできた蜂蜜の話をして聞かせました。アマンちゃんは、イモリの奥ちゃんの赤いお腹を思い出して、フフフと笑いました。
そして口の中にある秘密の袋から小さな宝石を取りだしたのです。それはあの日、ガマン君からもらった翡翠(ひすい)の一つでした。ガマン君はあの時四つの宝石を探してきたのでした。
一つは、カルガモさんの奥さんに、もう一つはイモリの奥ちゃんに、そして残りの二つは、アマンと自分に分けたのでした。
アマンはあの日からずっとその翡翠(ひすい)の玉を口の中に隠して大切にしてきました。今朝、水辺の草の中に生んだいくつかの卵を見たとき、それはまるでこの翡翠(ひすい)の玉のように、白から青に、そして薄緑にと色を変えてプルプルしていました。
あともう少しすると、アマンとガマンの赤ちゃんカエルが誕生するのです。アマンは自分が生まれた日、お母さんアマガエルがきれいな水を体に掛けてくれた事を思い出していました。
そして自分もきっと子ども達に同じ事をしようと心に決めていたのです。生まれた子ども達は、すぐに川の流れにのって、ちりぢりになっていくのです。お母さんアマガエルと子ども達は、ほんの少しの間しか一緒にはいないのでした。
勉強の部屋:ホバリング(注1)
ヘリコプターが空中で停止している様子 ハチドリやオオスカシバなども花の蜜を吸う時、同じ様な行動(ホバリング)をしますよ。
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