2012年11月28日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 8 <標高502m>


イブの夜もすでに10時を過ぎようとしています。外はちょっとした雪国状態。ビルとビルの間が作り出す独特の空気の流れが一種のつむじ風を生み、雪を巻き上げてブリザードのようになる。そこを歩いていると一瞬周りが見えなくなってしまう。もしこれが山の中なら完全に遭難するのである。ホワイトアウトである。

街中でも初めての人間は、パニックに襲われる。顔に吹き付ける密度の濃い雪で呼吸が出来なくなる事もある。それはほんの短い間だけれど、まず路上にかがみ込む事になる。その上に雪は容赦なく落ちかけ、巻き上げ、うっすらと積もる。

もしそれが女性だとすれば、周りから見たとき『雪女』と見える事もある。そんな『雪女』が煉瓦路西入の迷路に現れた。時間は私の記憶では、夜の10時を少し廻っていた頃だと思う。ちょうどジャモウがいつもその時間にオシッコをするのでまず間違いなかろう。

ドアーがコンコンとノックされている。常連なら、ぱっと開けて入ってくるがノックとは珍しい。私はドアーまで行って開ける。雪がさ〜っつと吹き込んでくる。その雪を連れて一人の女性が迷い込んできたのである。

私は女性を店に入れると、ドアーを急いで閉めた。一気に部屋の温度が数度下がったようだ。その女性は、長い髪の毛に雪を纏い、薄いベージュ色のロングコート、小さなバッグ一つ、靴はハーフブーツを履いていた。

体の雪を払って、私にこう言った。『遅くから申し訳ありません。食事は出来ますでしょうか?』『はい大丈夫です、それよりも寒かったでしょう』。 そう言ってまず暖かいおしぼりを出した。女性はしばらくの間、そのおしぼりを両手で包み込むようにして指先を温めている。

とりあえずストーブの近くの席に座ってもらう。傍にはジャモウが寝ている。もう耳を動かし、髭を振るわせ、鼻をぴくつかせている。どうも女性には特にめざといのだ。しばらくすると大分暖まったようで、薄ベージュ色のコートを脱いだ。

『なにか、お飲み物は?』と私。『焼酎のお湯割りお願いできます?』『はい、承知致しました』 そう言って一歩下がろうとして私は彼女の手に血の痕が残っているのに気付いた。が、さりげなくカウンターの中に戻った。

『どちらさんも、お休み、ええお年を』 と言って、師匠が帰って行った。浜ちゃんはしきりにパソコンを触っている。庵主様はカウンターにうっぷして、お休み中である。雪は一層ひどくなって来ている。ラジオからは、兵庫県南部に大雪警報が出されたと告げている。神戸の街はホワイトクリスマスを通り越して、スノウフル・ナイトになってしまった。

私は暖かい『にゅーめん』を女性のテーブルに運ぶ。軽く会釈をしたが、お湯割りを持った手が心なしか震えていた。そこへ入って来たのは五十そこそこの男。ごま塩頭を短く刈った頭領風。『庵主様お迎えに』 と言った。『庵主様お迎えでっせ、さあ、起きて』 と体をゆすった。目を覚ました庵主様は、その男を見て軽く手を挙げた。

その男は煉瓦路を出た広い通りに車を止めている。大きな四輪駆動車が雪灯りの中に浮かび上がっている。庵主様はその男に抱えられるようにして車に向かった。その姿は昔、児玉なんとかと言う右翼の大立て者がいたが、私には庵主様にそんな姿を重ね見たのであった。


Imagined by Jun

さあ今夜も遅くから、『雪女』ですか。白い雪と、手には赤い血の痕跡。いずれにしても10年に一度の大雪です。 このあと維摩には何が起ころうとしているのか?

グッニャオ〜ン(ジャモウ語で、今夜は早寝だ。)zzz・・



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