今夜の神戸「ジャズパブ維摩」には、東北気仙沼の旅からお帰りになった庵主様、まこっちゃん、あきちゃんが来てくれるのです。楽しいお話しが聞けるようで久しぶりに疾風真麻さん、安曇川麻沙美さんも来るとのことです。
さっきからジャモウが店の中をうろうろ歩いています。ランジェもその後からのろのろとついて行くのは何かを待っている様子。ハヤマさんのビーフジャーキーか、それとも庵主様を待っているのか、さてどちらでしょうか。
煉瓦道のすずらん燈に灯が入って、神戸の街には晩秋の冷たい風が吹いています。楓の葉がカサコソと音を立てながら逃げて行きます。
『こんばんは、お久しぶり』そう言って入って来られたのは庵主様。紺色の作務衣、本畳の雪駄、マウンテンストックを杖代わりに持って頭には宗匠頭巾をのせておられる。どこから見ても大店のご隠居の風貌であります。
『おお、ジャモウちゃん、ランジェも元気じゃったか?』そう言いながら猫達の体を撫でてやる。どちらもさも気持ちよさそうに、作務衣のズボンに顔を擦りつける。ヨダレのあとが光って残っている。
『いっしゅはん、お変わりなく?』『お陰様で元気にしています。ところで気仙沼は如何でしたか?』『いや〜、それが寒くってなあ。年寄りには堪えたよ』。庵主様は本当、ちょっと鼻声である。『まあ、懐かしかったね。30年振りじゃもの』そう話す庵主様の目が潤んでいる感じがした。
『皆様こんばんは』そう言って入って来たのは新谷兄妹のお二人。あきちゃんはぐっと女らしさが増したような。『はい、ジャモウちゃん、ランジェちゃん、気仙沼のおじゃこよ!』そう言ってカタクチイワシのじゃこを一つづつ足元に置いてやる。
ジャモウもランジェも余り喜ばない。やはりジャーキーの方が良いみたいだ。『誠さん、暁子さん旅行中はお世話になりました』と庵主様。『いえ、こちらこそご馳走になって・・・』『さぞ美味しい物を召し上がったのでしょうな』と、ちょっとやっかみ半分でいっしゅうさん。
『久しぶりに、ほやを食べましたよ』『へ〜、こちらではなかなか手にはいりません』『獲ったその日の内が勝負じゃからな』。と庵主様。そこへ運転手の源さんが大きな箱や紙袋を持って入ってきました。
『庵主様、お届けに上がりました』『おお、ご苦労。その箱はいっしゅはんに。紙袋はここに置いて下され』。そう言って大きな箱(発泡スチロール)をカウンターに置いた。『いっしゅはん、これ現地で仕入れた天然物の鰤じゃ。今日届くように手配したおいた』。70センチはあろうかという立派な鰤。
『じゃあ、今夜の肴に致しましょうか』『マスター、私が捌きますよ』と、まこっちゃん。12月には自分の店が開店する。これも良い練習である。この鰤は、庵主様が現地で誠さんに指示していたようだ。それは青葉の主人、山際清之助氏より仕入れたものだ。このルートは、新谷誠さんが近いうちに開店する、みちのく割烹『気仙沼』の鮮魚の仕入れ方法と同じであります。
『うわ〜、すっごいお魚!でっけ!』と言って近づいて来たのは、安曇川麻沙美さん。『庵主様お帰りなさい』『留守をしてすまなかった。どうじゃ劇団は?』『みな元気で最後の追い込みです。明日にでも先生に見て頂こうと・・・』『わかった、じゃあ明日拝見しよう。ところでハヤマさんは?』
『今オデイト中なの』『甲六さんか?』『はい、けっこ毛だらけ猫灰だらけ!ですのよ』『そりゃ、なによりじゃ。で、来年かな?』。そう言いながら庵主様は三三九度の真似をされた。その様子が可笑しかったのでみんな大笑い。
笑いの最中に、『こんちわ〜、あら庵主様お久』言わずと知れたハヤマさんである。相変わらず明るい自称宝塚ジェンヌである。『どうも、これはこれはお歴々。お懐かしゅうこざんすわいな』と、変な口上を述べながら、新在家甲六師匠が入って来る。なんと賑やかな事。ここに『すじ玉丼の看板娘』さんが来たら大変な事になりそうだ。
『皆様こんばんは〜〜、ご無沙汰で〜〜す』颯爽とやってきたのは、噂の麗人、看板娘さん。細身の体に、ピッタリのジーンズ。お店特性のTシャツの上にモスグリーンのブレザー。さすがのハヤマさんも負け気味。
BGMにはアーテイーショーの『スワンダフル』が流れている。これは暁子さんのお気に入りの一曲。ジャモウとランジェは前足でじゃこを突きながら遊んでいる。まあこんな仲の良い、種類の違った猫も見たことがない。この二匹の子供はどんなのが生まれてくるのだろうか。そんなこんなで、またまた盛り上がっております、維摩です。
暁子さんのお相手、株屋の浜ちゃんも到着。『あれ!辰兄の姿が見えませんが。ええ? 買い付けに行った! どこに?』
海外へ猫の毛皮を買い付けに行ったんだと。それも羽織袴で!ようやる・・。
さすが神戸の街パブですね。すずらん燈というのはすずらんのカタチをした街燈のことだと推察しますが、神戸の街の特徴なのでしょうね。お客様が仲良くひと時を過ごしている様子が生き生きと表現されていますね。またこれらの方々をいるか国立公園妙高に呼んでみていただけますか。
返信削除小川 洋帆 様
返信削除こんにちは。
「すずらん燈」は昭和の初期にはやった街路照明燈のひとつです。港町の広島県呉市の商店街や神戸の三宮〜元町などにあったようです。この小説の舞台となっているのは、そんな「OLD KOBE」の古き良き時代を再現しています。
ジャズパブ維摩に集まってくる人々が、妙高高原にやってくるのも楽しい設定でしょうね。