2013年5月26日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 44 <標高 625 m>


それは、海岸通り煉瓦路に木枯らし一号が吹き通って行った11月の初めの事でした。

10時にお店を開けて、門先の掃除をしたのです。どこから飛んで来たのでしょうか、沢山の色づいた木の葉が、吹きだまりや溝の中に積もっていました。

 小半時が経って、お店の準備をしていた頃、ドアーを開けて二人の男性が入ってきたのです。一人は50歳台半ば位でしょうか、鳥打ち帽をとった時、頭の毛が少し薄いように見えました。

 もう一人は、目鼻立ちのハッキリとした、彫りの深い顔立ちでした。目つきが鋭く、年齢は40歳前後でしょうか。こう見えても男の年齢は案外と分かるものなんです。自分が同性だからでしょうか? それに引き替え女性はよくわかりません。

 それはさておき、中年の男が黒い手帳のような物を背広の内ポケットから取りだして、ちょっと控えめな感じで私に示しました。

『朝から失礼いたします。私どもは、県警の安永と岩城と申します』『ああ、ご苦労様です。私は、このパブの経営者、井筒 修です。今日は何のご用件で?』と応対致しました。

『ちょっとあそこのテーブルお借りしてもいいでしょうか?』と安永と名乗った男が言った。二人をテーブルに案内して、私はカウンターの中に戻った。ちょうど朝のコーヒーが入った時だったので、お茶でも飲みながら話を聞く事にしたのです。

 ジャモウとランジェはストーブの薪束の上で丸くなって眠っている。でも私には彼らが眠っているとは思っていない。これでも『維摩』に5年もいるジャモウなどは、ここに入って来る人間を見ただけで、彼らにとって好ましいかそうでないかを瞬時に判断する能力を持っている。

 私にはその仕草を見ただけで、アニマル・インスピレーションが見て取れるのです。今まで何度も彼らの直感力に助けられた事があった。それは良きに付け、悪しきに付けではありましたが・・・。

 今日の彼らは、『警戒ランクC』を表しています。ちょっとおっかない人達とでも言いましょうか。私は、コーヒーをテーブルに運んだ。『何もありませんが、私の朝の一服に入れました。どうぞ』とさりげなくすすめた。

『いやあ、申し訳ありませんなあ。ご迷惑を掛けたようで』そう言って安永氏はコーヒーを引き寄せた。岩城と名乗った若手の男は、そのままじっとしている。安永氏が一口飲んで、今日の訪問の主旨を告げる事になる。

 果たして県警の刑事と名乗ったこの二人は、「ジャズパブ維摩」を何の用件で訪ねて来たのでありましょうか。その雰囲気からすると、なにやら『事件』のにおいがするのです。ジャモウやランジェの目と耳も、じっとテーブルに注がれています・・・・。

2 件のコメント:

  1. 何やらミステリーじみた面白そうな話に、新しく展開してきましたね。文章も流麗に書かれており話の状況がスッと頭に入り読みやすい文章になっていますね。私は警察小説を中心にミステリー月に4~5冊は買います。そして玄関のホールに置いてある4段の小ぶりの専用本棚に入れます。そして面白さのランクの落ちる本から抜き出して捨てていきます。従って本棚にギッシリ入っている警察小説は一番お気に入りのもののみが残った本棚として毎月リフレッシュされています。その入る分量だけミステリーの本は持っていることにしています。本棚から抜き取った本は東京の地下鉄千代田線のA駅の文庫に寄贈しています。この種の本は読む人が多く駅員の方から喜ばれます。

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  2. 小川 洋帆 様

    こんばんは。

    楽しいご趣味がおありなのですね。
    書物も自分の手元から離してしまうだけではなく、再利用されている。
    これもECO生活の一工夫ですね。立派だと思います。

    ボクは相も変わらず、自分の中にいる沢山のキャラクターが脊中を押してくれるので、いろんな物語を書いています。ではまた。

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