兵庫県警の刑事が二人、「ジャズパブ維摩」を訪ねてきたのです。コーヒーカップを皿の上に置いた安永刑事が、ゆっくりと顔をあげて訪問の目的を話し出しました。
『実は一ヶ月ほど前に、宮城県である事件が発生しました。殺人未遂なんですが、その犯人とおぼしき男の行方が分からないのです』『それが私どもと何か関係でも?』と私。
『その手配中の男はですね、ああ井筒さん、気仙沼はご存知ですか?』『行った事はありませんが、知っていると言えば知ってはいます。ただ話に聞いた程度ですが』『その男は気仙沼に住んでいた人物らしいのです。もう何年か前に妻と別れて今では一人身らしいのです』。
『その男が一体・・・?』『宮城県警の捜査によると、以前別れた女性の名前が新谷暁子と言うのです』『新谷暁子?』『井筒さん、ご存知ですか?』『同姓同名の女性は知っています。その人も宮城県気仙沼出身と言っていました・・・』。
『我々もある程度調べております。その女性がここ神戸に出てきているという事もね』『それでまたなぜ?』『いや、実はその男がかなり危険でしてね、前科もあるのです。逃げる途中で身よりを頼ってですね、ひょっとして新谷暁子さんを探し出して、訪ねて来るかも知れないと考えています』。
私はその話を聞いて驚きもしたが、ひょっとして彼女を訪ねて来るどころか、大いにその可能性があると感じた。逃亡者の感覚には鋭いものがある。もし今彼女のところへその男が現れたとしたら大変なことになる。暁子さんの結婚式は11月23日なのである。
なんとしてもその殺人未遂の犯人を捕まえてもらわねばならない。私は刑事にこういった。『私の知っている新谷暁子さんはきっとその人でしょう。昨年のクリスマスイブの夜、ここに倒れるようにして入ってきました。確か気仙沼で結婚した相手がギャンブル狂いで借金地獄。自分が夜の街に働きに出て体を壊し、行き着くところが離婚。とまあそんな話でした』。
『そうですか。ご協力有り難うございます。ではもしその男がここを訪ねてきたら速やかに連絡願います。これが顔写真です』。そう言って一枚の写真を取り出して私に見せた。
瘠せた顔に鋭い目つきが印象的だった。私は新谷暁子について知っている事は全て刑事に話した。そして保護して貰うよう頼んだ。警察は当然そこまで考えているとの返答だった。
二人の刑事は礼を言って帰って行った。私は、さてどうしたらいいか迷っていた。そうだまず庵主様に相談をして、新谷誠さんと会おう。彼に今日の事を話し、暁子さんにどう伝えるか相談しよう。
早速庵主様に電話を入れた。簡単に用件を話すと、庵主様は今夜ここへ来るとおっしゃった。その時誠さんも連れて行きましょうとのご返事。どうやら割烹『気仙沼』の内装の件で、今日まこっちゃんと会うらしいのです。
私は庵主様を信頼している。普段は飄々としておられるが、あれでなかなか度胸が据わっている。昔は神戸の町でもちょっとは顔が売れていたらしい。その道の男達からも一目置かれていたと友人のぶん屋(ぶんや=新聞記者)から聞いた事もあった。
さて庵主様、新谷誠さんを交えての対策会議。大きな事件に発展しない事を祈らずにはいられない私でありました。
悪人の元の配偶者に追われそうな新谷暁子さんが心配ですね。ぜひそんな悪い奴と思われる人物が人を不幸に陥れたりしないよう、庵主様がうまく采配を振るってくださることを祈ります。
返信削除小川 洋帆 様
返信削除こんばんは。久しぶりの良い雨でしたね。畑が喜んでいるのが感じられます。
今日、Iさんのレストランでビールを頂きながら、少しばかり歌を楽しみました。
是非またお訪ね下さいと、ママさんからのメッセージでした。ではまた。