【P im P Story (ありそでなさそな話、なさそでありそな話)】
「竜の垂らした涎(よだれ)」
私(流一平)は、クルーザー・アフロディティー号の中で既に一週間の泊まり込み生活を続けていました。ガイドのルビアンは赤銅色の鋼のような体で自由自在に船を操縦し、私の指示通りにそれを走らせていました。
外洋の潮の流れの複雑な場所で、以前8kgのブロックを発見した経験を持っているのです。彼はその漂流物を双眼鏡で見ただけで、それが竜涎香かどうかの区別がつくと言います。この島にも彼の右に出るガイドはいないのです。
この稀少品が打ち上げられる海岸は世界的に見て、ニュージーランド、アフリカ、日本、インドなどでしょう。特に日本は黒潮が流れているので、沖縄、九州、四国などの太平洋岸が可能性のあるポイントなのです。
私の滞在が可能な10日間がもう迫っていました。朝から晩までクルーザーを徐行させながら海面を見続けていました。しかし残念なことに今回の滞在中、お宝の発見は出来ませんでした。是非来年の5月には再度この島を訪れる約束を、ガイドのルビアンと交わしました。
ルビアンはお礼にと言って、小さな黒褐色の塊を私の手の平に載せてくれました。それは彼がゲットした8kgの片割れだったのです。私はその竜涎香を、ライターで熱っしたワイヤーを、約1㎝ほど差し込み、その煮えた樹液状の液体を指で揉みました。
そしてワイヤーを再度ライターの火で燃やしました。すると塊とおなじ芳ばしい香りのする白い煙が出て、炎を消すとゴムを燃やしたような、なんとも言えない芳ばしい香りが立ちこめました。これが竜涎香となるのです。このチエック方法をホットワイヤー法と呼んでいます。
竜涎香を探し求めて その顛末
今回のロドリゲス島周辺探索行を終えて日本に帰ったのは秋のはじめでした。その頃私(流一平)は、母方の故郷、高知県の足摺岬に法事のため帰っておりました。辺鄙な漁村で、今では従兄弟が住んでいるだけなのです。福島県裏磐梯を出て、モーリシャス国の属領、ロドリゲス島に10日間滞在し、その後ニュージーランドからオーストラリアの各地まで足を伸ばしておりました。そして今高知県の足摺岬に来ているとはまことに不思議な気持ちがしています。と言いますのは、ロドリゲスも足摺も美しい勇壮な海に囲まれた別天地だからです。
その日もいつものように村の知人が集まって法事の後の宴席が始まりました。さすが土佐の男連中は酒が強いのです。豪勢な皿鉢料理(さわちりょうり)を食べながら日本酒をグイグイあけていきます。私も知らない間に相当やっておりました。ちょっと悪酔いした感じで、外の冷たい海風にあたりに浜に出てきたのです。
屋敷の近くに広がる荒々しい海岸には大きな波が打ち寄せています。酒の勢いもあってその岩場に出て行きました。多くの磯釣りマニアが訪れる絶好のポイントが続いています。その日は、誰もいないひっそりとした海岸でした。鼻歌などを歌いながらゆっくりと散策していました。少し歩いて行くと、大きく島を回り込んで入り江のような場所に出ました。
材木や漁具などの漂流物があちらこちらに転がっています。その時でした。何か黒い塊の様な物に躓いたのです。酒のいたずらでちょっと千鳥足なのです。なんだろうとそれに目をやった時、頭の先から冷水を浴びせられたようなとでも言いましょうか、目が覚めたような衝動を覚えました。
それはあのロドリゲス島でも見つけられなかった竜涎香が、今この足摺の海岸に打ち上げられている、夢ではなかろうか、もしこれが事実ならこんな凄いことはない。早速ポケットからライターとワイヤーを取りだして、ホットワイヤー法での現物確認です。それは紛れもない、竜涎香そのものでした。重量も1kgは下らないようです。
幻の竜涎香を持って足早に従兄弟の家に帰ってきました。宴席はすでにお開きになっていました。『何を大事そうにもっちゅうんぜよ』私の姿をみて従兄弟が言いました。『いえね、ちょっと調べたいことがあって・・・』と私は言葉を濁しました。従兄弟がその塊をみて、匂いを嗅ぎ一言こう言ったのです。
『それは竜涎香ちゅうもんじゃ、たんまに浜に打ち上げられるんぞ、おんし、そこの納屋の奥にいて見ろや、爺様が70年昔に拾うて来たちゅう、埃を被った塊がころがっちょろうが、ほしけりゃ土産にもって帰れや』。赤銅色をした浜漁師の遼太郎は、くわえ煙草で黙々と漁網の修理をしています。
私はその時ほっぺたを力一杯つねりました。もう先ほどの酒も冷め切って、その痛さときたら、痛いのなんのって。『まっこと、夢じゃなか』と納屋の中で一人呟いたのでした。
P im P Story(ありそでなさそな話 なさそでありそな話)おしまい
何とも夢のある話ですね。金鉱を拾うような夢のような出来事ですね。しかも肝がんに出れば打ち上げられている可能性があるわけで、毎日犬の散歩かなにかで海岸を通ればチャンスはあるようですね。海岸沿いに住んでいる人はそういう夢を持てますね。
返信削除小川 洋帆 様
返信削除こんにちは。いつもコメント下さり心より感謝申し上げます。
そうなんですよ。日本の九州、四国などの太平洋岸を散策しているビーチコマーがおられます。健康と夢を追って海岸の散策は気分も晴れて、心が明るくなるでしょうね。
ひょっとして見つかれば、ラッキーですね。ボクも海岸が近かったら是非やってみたいと考えております。ではまた。