2013年6月7日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 47 <標高 635 m>


1112日の朝が明けました。まさに日本晴れを絵に描いたようなお天気。ちょっと冷えてはいますがお輿入れにはもってこいの日になりそうです。朝から新谷誠さんは妹の引っ越しで、てんやわんやの大騒ぎです。4Tトラックを借りてきてお嫁入りの荷物を積み込んでいます。

暁子さんも一通りの準備をしていたようで、花嫁荷物はトラックに積みきれないほどです。庵主様もいらして、楽しそうに話をされています。積みきれない荷物は、庵主様の四輪駆動車に積んで行くようです。運転手の源さんもお手伝いです。

 近所のおばあちゃんが何やら手に持ってやってきました。『暁子さんはおいでてか?』『お〜い暁子、お客さんだよ〜』と、まこっちゃん。

『まあ。佐久間さんのおばあちゃん』『いやあ、さみしくなるねえ。せっかくお知り合いになれたのに』『おばあちゃん ごめんね、でも近くだから。それに兄のお店の手伝いで、しょっちゅう来るんとね』『そりゃ嬉しいよ。お店どこ?』

『清荒神の駅から10分ほどの、ほら一度竹の子掘りにいったでしょう。あの近く』『じゃあ、この婆もたまには飲みにいこうかいの』『是非!お待ち申し上げております』そう言って二人は女学生のように笑った。

『暁子さん、なんにもないんじゃが気持ちだけ』。佐久間婆は手に持った包みを渡した。『有り難うなんだろう?』礼を言って暁子は風呂敷包みを解いた。それは欅の木で創られた文箱であった。箱の表面に秋の空を流れる雲が映っている。 それは佐久間婆の宝物であったのだろう。暁子は短い間のお付き合いにしか過ぎない自分を、我が娘のように可愛がってくれた婆の優しさを感じて、感激の余りしゃがみ込んで泣いた。『だめよ、お化粧が台無しじゃね』と佐久間婆が肩に手を置いて言った。

時間が来てトラック、四駆の順に出発をした。角を曲がるまで佐久間婆が手を振っているのが見えた。午後一時、予定通りに車は、浜裕次郎家に着いた。なんと家の前の通りに、旗のようなものを振っている老婆がいる。この人こそこれから暁子さんの力強い味方になる『浜千鳥』婆さんである。正式には浜裕次郎さんの父方の祖母である。この名前は本名だそうです。なんでもお父さんが、鳥好きで女の子が生まれたら『千鳥』と決めていたとか。

いよいよ新しい生活のスタートでした。庵主様の荒技、結婚前のお輿入れは誠に上手くいったようです。

『浜千鳥』婆さんの心づくしのお料理で、今日の佳き日の祝宴が催された。誠さんも庵主様も、新郎新婦の嬉しそうな表情を見て、なんとしても降って湧いた様な『いまわしい事件』の解決を願わずにはおれなかった。

それから数日後、海岸通り煉瓦路西入る、「ジャズパブ維摩」の近くで気になる事が起ころうとは、この時はまだ誰も知りはしなかった。


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