2013年6月20日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 50 <標高 648 m>



浜裕次郎さん、暁子さんの結婚式も無事終わり海岸通りの『ジャズパブ維摩』にはご出席の皆様が集まってきました。披露宴会場という訳です。椅子や机をそれぞれ動かして適当に座って、好きな物を食べて飲む。

それこそ普段の延長のような宴会であります。それでも新郎新婦とお仲人さんのお席は真ん中奥に用意されてあります。今日の乾杯の音頭は、私、井筒修がつとめさせて頂きます。

あとは新郎・新婦が装いもあでやかに会場の扉を開けて入場してくるのを待つばかりになっていました。庵主様の奥様も素敵なブーケと大きな花束を用意されて、二人の到着を待っています。その時ドアーが開いて、一人の老人が入って来ました。運転手の源さんが案内して来たようです。


その老人は、12日の暁子さんのお輿入れの朝、お別れに訪ねてきた佐久間婆でありました。庵主様のお計らいで、源さんが迎えに行ったとの事。突然の事とて、佐久間婆は普段着のままです。会場の雰囲気はますますヒートアップしていました。


さてその日の朝、泊雄二は神戸三宮の、とあるカプセルホテルの寝床で目を覚ました。なにがどうって事はないんだが、この前歩いた海岸通りをもう一度歩いてみたいと無性に思った。それは気仙沼の漁師の家に生まれ、25才まで近海漁業の船に乗っていた「海の男」の血がそうさせたのかも知れなかった。

午後2時、彼はいつもの風袋でK公園のベンチを後にした。今日で神戸の街を離れるつもりだった。さて次はどこに行こうか?  漁師仲間で、岡山の下津井港で仕事をしている男がいた。

明日は下津井漁港へ行ってみようと考えながら、坂道を旧居留地の方向に下って行った。勤労感謝の日とて、家族連れが楽しそうに歩いていく。それを見ていると、7年前暁子と結婚した当時の自分の姿が脳裏を掠めて通り過ぎて行く。

どうしてバクチの道にはまり込んでしまったのだろう、それも借金までして。高利貸しより逃げまどう日々の生活。暁子が見るに見かねて、夜の商売に身を沈めてくれたのも、当たり前のように思っていた自分であった。あげくの果てにその高利貸しを刺してしまったのだ。

潮の香りが鼻をつく。気仙沼の空気とは違っているがここには活気溢れる造船所の油の匂いがする。肩をすぼめて、小さなボストンバッグ一つを腋に抱えて足早に神戸の港通りを歩いて行く。

ちょうどその頃、浜裕次郎、暁子さんは、海岸通りから煉瓦路へ向けて、タクシーを走らせていた。二人は今日の結婚式の時、なかなか入らなかった新郎の指輪を見て笑いあった。

煉瓦路の蔭に潜んでいた目つきの鋭い男が、ケイタイを取りだして何か連絡を入れた。元町通りにいた岩城刑事が踵を返して北側から煉瓦路へと急ぐ。

時を同じくして、県警のパトロールカーが二台、西と東から静かに発進した。浜夫妻を乗せたタクシーは今しも煉瓦路の手前に差し掛かっていた。

「泊雄二」は潮の香を吸い込みながら、水上警察署付近を歩いて行く。少し離れてダッフルコートを着た男二名、確実に目標(ターゲット)を指呼の間に入れた。ビルの蔭にパトカーが二台それぞれに位置を決めて待機した。一人の刑事が再度胸のポケットを確認した。それは泊雄二にたいする殺人未遂罪の逮捕状であった。


2 件のコメント:

  1.  刑事が凶悪犯人の浜さんを尾行して万全な体制で逮捕寸前になりましたね。これで新郎・新婦の安全がほぼ確実となりホッとしています。二人に幸せあれ、と言いたいです。

    返信削除
  2. 小川 洋帆 様

    お早うございます。

    昨日は畑に行っておりました。今年は豆(モロッコインゲン)の発芽が非常に良く、収穫期が楽しみです。ジャガイモはお猿にやられましたが、なんとかなりそうです。

    キュウリやズッキーニを植えました。ルバーブ畑の草抜きをしましたが、腰が痛くやはり辛いですね。洋帆様もあまりご無理をなさいませぬ様。 ではまた。

    返信削除