【花一輪・恋の笹舟(七)】
仏説摩訶般若波羅蜜多心経
「 不垢不浄、不増不減」
『順心様、確かに承りました。女の身とて何も出来ませんが、御仏に仕える者として心から行じさせて頂きます』
その言葉を聞いて順心は、草鞋を履き笠を持って戸口に立った。そしてもう一度春禰尼の姿をみた。尼は頭を垂れて静かに言った。『御身ご大切に、呉々もご安全に御旅をお進め下さいます様。ご無事にてのお戻りをこの尼、御仏に日々お祈り致しておりまする』
順心坊はその言葉を聞いて、不覚にも涙が零れてきた。修行僧ではあったがやはり人の子、嬉しかったのである。春禰尼も隠れてそっと瞼を押さえた。遠くの杉の木でふくろうが静かに鳴いている。
数日後、順心は山を下りて村を出た。冷たい水が流れる川に木の橋がかかっている。その傍で数人の村人が集まって旅立ちを送ってくれた。しばらく歩いて山道に差し掛かる所に人影が見えた。大きな木の蔭に佇んでいたのは、あの日お互いに見つめ合って別れてきた春禰尼その女(ひと)であった。
順心は、軽く会釈をしてその前を通り過ぎた。その時小走りに春禰尼が近づいてきた。そして順心の袂に小さな結び文を入れた。そして後ろを振り返る事も無くまた走り去って行った。
今回の順心の伊予路への旅は出来る限り行けるところは徒歩で行くつもりだった。歩いて行くことこそ僧の本来の姿であると順心は心得ていた。ただ海を越えなければならないのである、これは致し方のないこと、どうしても船に乗らねばならない。
兵庫の丹波の地を出てもう既に3日が過ぎていた。順心はその頃、岡山の宇野にいた。それまでに道中沿いの寺院をいくつか訪ねていた。もう播州路も吉備路にも、秋が深まっている。
読み進めるうちに正しい振る舞いをする二人の大人同士の運命に何か起こる出来事が予感されてきました。例えば瀬戸内の海で予期せぬ嵐に遭遇して順心の身に何か起こり、通常ではあり得ない状況で二人がまた、太追えば天国で再会することができる運命のような気がしてきました。幽玄の世界のような予感がしました。続きが待ち遠しいです。
返信削除ところで庵主様、9月29日[日)に池の平の老人ホームに訪問演奏を依頼された件、我々が予定している男声コーラスの練習は同じ池の平で夕方の17時からと決定すれば、依頼された14時に老人ホームを訪問してからその後練習に行くこともできますね。そのようにスケジュールすれば両方可能ですね。
小川 洋帆 様
返信削除こんばんは。9月29日(日)、おっしゃる通り時間がとれますね。ライフケアに出かける事に致しましょう。有り難う御座いました。