2011年12月31日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高241m>


流一平氏北欧に飛ぶ

で、一体ここへ何しに来たのかって? それはもう少しお話しすればお判かり頂けると思いますので、ここではまだ内緒にしておきます。ところで庵主先輩、覚えておいでですか?
昨年、黒姫高原のホテル・アプルーゼでの事。ほらフランスはパリ、カルチェ・ラタンからやってこられた吉岡 泊(とまり)先生のことなのですが、ここアイスランドでお会いする事になっているのです。

あの時は「マロニエの木蔭から」というタイトルの記事でしたが、今回はさしずめ「オーロラ・夢物語」とでもしておきましょうか。今、マドモアゼル・吉岡をお待ち申し上げている流(ながれ)めにございます。ごめんなさい。

今はサマーシーズン、ホテル・レイキャヴィーク・セントラムのガーデンには庭焚が優しい風に心許なく揺れています。と言っても今回の目的は、吉岡先生に会うだけではありません。れっきとした仕事を遂行するのは言うまでもありません。

通りを挟んで小さなショッピング・モールが見えています。いましもそのお店から一人の女性が現れました。真っ白いパンタレオーネがとっても眩しい。ジャケットはネイビーシルクの風遭(かぜあい)のコラボ。

この女性こそ、わたくし、流一平の尊敬するセルボンニュ大学の助教授、T・吉岡先生その人であります。もうそこまでやってきました。今日は珍しいバッグを持っておられる。いつものセリーヌではありません。私は立ち上がって手を振ってしまいました。周りの老夫婦が怪訝な顔をして私を見ています。

『先生、こちらですよ!』と日本語でお呼びしました。さきほどの老夫婦が、その言葉を聞いて頷きあうのが横目に見えました。言葉の響きで、日本人だという事がわかったのでしょうか?『こんにちは一平さん、お久しぶり』そう言いながら白い手を差し出されました。私はまるで宝物にでも触るように、先生の手を軽く握ったのです。もうこれだけで、アイスランドに来た甲斐があったと思うほど・・・でした、これは本音です先輩。

先生は黒姫高原のお出会いの時にも話に出ましたが、「クマムシ」を研究なさっておいでなのです。聞くところによりますとそれはとても不思議な生き物だそうで、どこの家の庭のコケの中にも棲んでいる微生物だそうです。

でもこの小さな昆虫のような微生物が将来の人類を救う事になるかも知れないと言うのです。まあ、私にはなんの事か分かりませんが、先進国の学者先生が競って研究しているのだそうです。『そうそう、クマムシだったわね。この子はどこにでもいるの。でもその実態の殆どは霧の中』『どこにでも? 私の周りにもですか?』私はこの時、マドモアゼル吉岡がその美貌にかかわらず、この得体のしれない「クマムシ」とか言う微生物を研究しているとはどう考えても理解できなかった。

『一平!本当に見たいのですか?』『もちろん!』『顕微鏡はお持ちですか?』『虫眼鏡なら・・・』『それは駄目ね。だったら私の古いので良かったら使って』『やった!でもいいのですか?』まるで子供のようにはしゃぐ自分に年甲斐もなく不思議な感じがした。私は黒姫高原のホテル・アプルーゼの夜を思い出していました。あの時はマロニエの木陰があった。今日は大きなドイツトウヒの木がそれに代わって私達を迎えてくれていた。


マドモアゼル・吉岡にはこの街がお似合い Imagined by Jun





2011年12月30日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高240m>

流一平氏北欧に飛ぶ

ボクの古くからの飲み友達、流一平氏から久しぶりにメールが届きました。前回はモーリシャスのロドリゲス島よりのアグレッシブな便りと電話でしたが、今回はなんと北欧の漁業立国、アイスランドからであります。ボクなどこの国の名前を聞いただけで、氷に閉ざされた極寒の地しか思い浮かばないのですがね。何故一平氏は、アイスランドに飛んだのでありましょうか?

それでは皆さんとご一緒に見て参ることと致しましょう。

レイキャヴィーク発:2008.7.7 PM 7:35  Midnight-sun(白夜)

庵主先輩、ご無沙汰致しております。今私はここアイスランドの首都、レイキャヴィーク(Reykjavík)に来ています。覚えておいででしょうか? ほら今から22年まえ(当時)の事、東西サミットとして、レーガンとゴルバチョフ会談が行われたのがこのレイキャヴィークだったのです。

というのもこの場所こそ、ワシントンとモスクワのちょうど中間点にあったからなのです。それほどに国際政治と言いましょうか、国家間のパワーバランスというものは微妙なものですよね。

私は、2004年にオープンしたばかりのホテル・レイキャヴィーク・セントラムに滞在しています。この町は世界でも美しい港町のNo.5には入ると思います。このレイキャヴィークという名前の由来は、「煙たなびく湾」という意味なのです。

この国は日本に匹敵する、いやそれ以上に火山国なのです。到るところで火山が煙を上げ、間欠泉が空中高く蒸気を吹き上げます。それだけに温泉も多く、お風呂好きの日本人にはたまりませんよ。

だからこの町を最初に見た人たちは、その湯煙を「煙」と勘違いし、「煙たなびく湾」即ちレイキャヴィーク(Reykjavik)と呼んだのでした。日本でも「湯村町」とか「湯ノ花平」などと呼ばれている町や村があるのと同じですね。

さて私が今回、アイスランドを訪れたのにはそれなりの理由(わけ)があるのです。この国は一言で言うと氷と溶岩の上に出来ている国なのです。日本は火山国ですから、マグマの上に存在すると言っても過言ではありませんが、氷の上にはありませんよね。

さて庵主先輩、ここレイキャヴィークの人口はどれくらいだと思われますか?200811日現在ですが、117,898と発表されています。アイスランド共和国(Republic of Iceland)全体では31万人ほどしかいません。という事は、首都のレイキャヴィークに約40%の人が住んでいる勘定になるのですね。

日本の普通の市の人口くらいでしょう。このアイスランドと同じ人口数の市は、埼玉県越谷市319,508人。群馬県前橋市317,171人。沖縄県那覇市313,391。の三市だと思いますね。

国の大きさはどれくらいかと言いますと、10.3万平方キロメートルですから、日本の北海道よりやや大きいでしょうか。でも北海道に31万人が住んだとしたら、お隣さんは見えないのではないでしょうかね。

(明日に続きます)

2011年12月29日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高239m>

酒を愛した俳人、松尾芭蕉と宝井其角

さて前置きが長くなってしまいました。ここから今回のメインテーマ、「酒を愛した俳人、松尾芭蕉と宝井其角」のお話が始まるのです。


主人公、俳聖芭蕉はお酒は飲んだようですが、けっして酒豪ではありませんでした。酒も俳句をつくる素材の一つと考え自然体であったようです。その頃のお酒は「花に浮世酒白くして飯黒し」という濁酒(どぶろく)と玄米飯でした。

芭蕉の活躍していた元禄時代には、清酒は高級品で彼の収入ではとても手が届かなかったようです。ところがそのころの事でありました。ある裕福な町人のお弟子から、清酒の二升樽が贈られてきたのです。芭蕉は大喜びでこんな句を詠んでいます。

「月花もなくて酒のむひとりかな」といった調子で、この虎の子の清酒を、ちびりちびりと長い時間をかけて楽しんだそうです。そしてまたこのような句を作りました。
「飲みあけて花生けにせん二升樽」この空いた樽にまた新しい酒を詰めれば良い香りがするのですが、芭蕉にはそんな余裕とて無く、花生けにするという風流を句にのこすのです。

その頃の、芭蕉の弟子は酒のみが多く、中でも宝井其角(たからいきかく)は酒豪として知られておりました。彼の句に、「酒を妻つまを妾の花見かな」と、女房より酒を愛するほどの、手放しの酒大好き人間であったようで。
弟子を預かる芭蕉先生は、この大酒を心配され其角に節酒を促す手紙を書いたのでした。そしてその文末へ次の句をしたためます。

「朝顔に我は飯喰う男かな」と食らわしました。この意味は、わしはお前のように朝酒は飲まん・・・。この句意に其角は恐れ入ってしまったのです。その朝顔も終わる頃、ちょうど季節は仲秋の名月です。

その夜芭蕉は、其角らと大川を小舟で上下し月をめで、酒を酌んだがなかなか名句は出来ませんでした。家に帰ってもねむられぬまま庭でフト浮かんだのが次の句だったのです。

「名月や池をめぐりて夜もすがら」

さすが俳聖といわれた芭蕉、フト浮かんだ句が360有余年経た今日までも輝きをはなっているのです。やはり深酒をしていてはこうはいかないのでありますな。




(これはまさしく自省の弁であります)




2011年12月28日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高238m>

酒を愛した俳人、松尾芭蕉と宝井其角

松尾芭蕉は、寛永21年というから西暦1644年今の三重県上野市、当時は伊賀国上野に生まれています。生涯を旅と伴にし、「奥の細道」「更科紀行」などの名作を遺しています。
松尾芭蕉は、東北の旅を続けて行く途中、松島から北上川に沿って北上、奥州藤原氏や源義経ゆかりの平泉を訪ねています。


ここでは、「夏草や兵(つわもの)どもが夢の跡」の名句を残し、その後南下して宮城県の鳴子から西に向かっています。芭蕉が「松島」と並ぶ名勝と褒め称えた「象潟」、その美しい景観はどうして出来たのでしょうか?

それは「象潟地震」と呼ばれる大地震が原因でした。芭蕉がここを訪れたのは、元禄二年六月頃です。西暦では1689年8月であり、「象潟地震」はそれから100年以上経って発生しています。

理科年表によりますと、文化元年六月四日(西暦1804年7月10日)です。マグニチュードM7.0であったようです。
「象潟地震」は5月頃より付近一帯で鳴動があったとの記録が残っているようです。当時の被害は壊れた家屋、5千以上、死者500名以上であります。そしてその地震の影響で、象潟湖が隆起して陸地や沼地になったのでした。

折角の美しい海や入り江が隆起して陸地になったのです。景勝地が無くなってしまったのですが、どっこい今もなかなかの観光地になっているのです。明治
21年7月15日、磐梯山の大噴火の時も湖がせき止められて今の裏磐梯高原の景勝地が出来上がった経緯もありました。

象潟ではこのような句を残しています。

「象潟や雨に西施がねぶの花」元禄二年六月十六日
雨のふっている象潟はまるで、中国の西湖のようだな。そして、ねむの花を見ていると、あの絶世の美女、西施(せいし)の事が偲ばれる。といった意味でしょうか。

(明日に続きます)



2011年12月27日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・今朝のポエム <標高237m>



むかし雪の坊やの鎌倉をつくった

こどもたちの夜道の目印になった

闇を切り裂くような恐ろしい声

ゴギャー ゴギャー

思わず耳を覆った

ゴギャーの渡る夜は大雪になりそうだ

(庵主:今朝のポエムより)

2011年12月26日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・今朝のポエム <標高236m>



樅の木は耐えている

自分が倒れないよう

必死で我慢している

夜中の風雪を乗り切って

いまやっと朝の光に手を伸ばした

2011年12月25日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高235m>

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ありそでなさそな・なさそでありそな・お話


「花厩舎一馬(はなきゅうしゃかずま)の一日」より 第75回 東京優駿(日本ダービー)結果

平成20年度の「日本ダービー」を予想した花厩舎一馬とS嬢、果たしてその結果はいかに。もう一度彼らの注視した馬の名前を記しておきましょう。

2枠 4番 タケミカヅチ   6枠 11番 レッツゴーキリシマ 

2枠 3番 ブラックシェル  5枠   9番 マイネルチャ−ルズ でありました。

そのわけは、12月22〜24日のブログに書かれていますのでご参照下さい。さてレースの結果はどうなったのでしょうか?

2008年(平成20年)6月1日(日)東京競馬場 芝2400m 左周り 天候 晴れ 良馬場
18頭フルゲートにて行われました。

当日の模様を庵主の実況中継にて再現してみましょう。

大観衆の歓声の下、昨夜まで雨が降っていました東京競馬場にも素晴らしい晴天が戻って参りました。その大空に響き渡るファンファーレとともに各馬一斉にスタートいたしました。やはり1コーナーにさしかかった先頭の馬はその名の通り、ゼッケン番号11番レッツゴーキリシマ、幸騎手の手綱さばきも軽やかに悠然と逃げています。2番手には3枠5番アグネススターチ、4枠7番スマイルジャックと続いています。単勝1番人気を背負っている1枠1番デープスカイは後ろから4頭目を走っています。さてこれはじっと我慢をしているのでしょうか?

単勝2番人気マイネルチャールズ 松岡正海騎手は中団より少し前、馬混みの中をマイペースで進んでいます。2コーナーにさしかかったところで、1番デープスカイが序々に前をうかがっております。それでも各馬大きくその順位に変化なく第3コーナーにさしかかってまいりました。

レッツゴーキリシマの逃げ足はほとんど変わらず、アグネススターチ、スマイルジャックをあとに従えるように悠然と逃げ足を伸ばしております。さあいよいよ4コーナー・ホームストレッチにレッツゴーキリシマを先頭に各馬一斉になだれ込んできました。

直線の坂を上り切って、まず抜け出してきたのは4枠7番スマイルジャック。直後からレインボーペガサス、ブラックシェル、マイネルチャールズも迫ってきました。スマイルジャックのリードは2馬身ほどありましょうか?その足色には力強さがまだ十分に残っているようです。第75回日本ダービーを制するのはこのスマイルジャックでしょうか?

おっと、ちょっと待ってください。大外から一頭疾風のように駆け込んでくるのは、なんと4コーナーを廻ったときはまだ後ろから4頭目にいたデープスカイです。栗色の弾丸デープスカイ、四位洋文騎手の鞭がうなる中、馬場の大外をただ1頭だけ次元の違う未脚で差しきって今ゴール板を通過しました。1番人気に応えたデープスカイ、キングカメハメハ以来史上2頭目となるNHKマイルCと日本ダービーの連覇を達成いたしました。四位騎手も武豊に次いで史上2人目となる日本ダービー連覇を達成した瞬間です。

【結果】

1着 1枠 1番 ープスカイ
2着 4枠 7番 スマイルジャック
3着 2枠 3番 ブラックシェル
4着 5枠 9番 マイネルチャールズ
5着 5枠 10番  レインボーペガサス
6着 8枠 18番  クリスタルウイング  でありました。

花厩舎課長とS嬢の予想は外れました。とはいえ3着にブラックシェルが入ったのは立派でした。なんと複勝馬券(1〜3着までに入れば当たり)の配当金が350円は美味しいですね。それに4コーナーまで先頭を走ってくれたレッツゴーキリシマには敬意を表します。13着に破れたとはいえさすがでしたよ。

以上 ご報告させていただきます。



2011年12月24日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高234m>

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ありそでなさそな・なさそでありそな・お話


「花厩舎一馬(はなきゅうしゃかずま)の一日」より

その時S嬢がポツリと言った事にぎくっとした。『火山馬名馬では駄目なの?』『そんなのいるのか?』『ほらここに!』そう言って指し示した彼女の細い指は、6枠11番レッツゴーキリシマをLock on していた。

確かにキリシマは九州の霧島であり、今も熱湯が噴出する火山地帯の温泉が有名であった。そうか、このような発想も時としては必要である。騎手も幸英明であり、『ダービーは幸運な馬が勝つ』との格言に相応しい名前であろう。

花厩舎一馬はもう一度JRのホームページの内容に目を向けた。蹄鉄が描かれてあり元は穴が9つ開いていた。しかし端の1つは男性の頭に隠れて今は見えない。と言う事は端の馬は消しか・・・、と考えたのである。

その時、またS嬢のコメントが発せられた。『2枠3番の馬、ブラックシェル、黒い貝それとも黒いオイル?どちらかしら』『シェルをどうしてオイルと結びつけるのだ?』『確か、シェル石油というのがあったわ、だから・・・』『なるほど、地震・雷・火事・オイルの石油か・・・』ここで3頭目に2枠3番ブラックシェルが候補に挙がったのだ。

その時、佐藤浩市(騎手)が蝶ネクタイをしているのに気づいた。それも白い蝶ネクタイではなかったか。白は1枠、という事は、1枠は蝶のように飛んでしまうというのか・・・?

さて敢えてもう一頭上げるとすれば、5枠9番の馬、マイネルチャ−ルズになろうか。その心は、調教師、稲葉隆一氏の稲にある。この字はまさに今、日本列島田植えのシーズン。自然の恵みの中にこそ優れた農耕馬(優駿)が生まれたのであった。そして今回のダービーのキーワード、『火』はここにもその影響を与えている。『稲光』はまさに『雷』に通じているのである。

S嬢、それでは申し上げましょう。今回も単勝勝負で、2枠4番のタケミカヅチ、3番のブラックシェル、6枠11番のレッツゴーキリシマ、そして最後に5枠9番のマイネルチャールズで良いだろう、どうだね』『やっぱり花厩舎課長は、深読みの一馬ね。ところで自然現象なら、レインボーペガサスも立派な自然現象なこと』『でもな、虹だろう、消えるのが宿命か・・・』『帰り際、割烹“魚澄”に行ってご夫婦にお伝えしなければね』『前祝いね、嬉しい!』『勝負の前に祝い酒か・・・しないほうが・・』と花厩舎課長は独り言を言った。

さてどんなものでしょうか? 今回は、3番4番の枠連の2-2、馬連は3-4、ウラも含めた馬単3-4、4-3、そして念には念を入れて、ワイドまで少々手を伸ばしてみる予定です。

という事で、花厩舎としては、今年のダービーこそ自信(地震)をもって臨みたい。結果は『火』を見るよりも明らかではあるが・・・。

(平成20年のダービーの結果は明日のブログで)



2011年12月23日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高233m>

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ありそでなさそな・なさそでありそな・お話


「花厩舎一馬(はなきゅうしゃかずま)の一日」より

S嬢の真剣な眼差しは、前回の桜花賞の前々日の夜、割烹「魚澄」(うおずみ)で飲んだ時よりも一層迫力を増していた。2ヶ月ほどの間に、競馬について相当勉強したに違いない。テーブルに運ばれてきたキングサーモンの温野菜添えを食べながら花厩舎一馬は、馬を愛する女性は男を求めているとの評論を読んだことを思い出して、そっと彼女の顔を盗み見たのであった。

『はい、これ!』そう言って彼女は封筒から書類を取りだした。NETから印刷したダービーの「出馬表」(でまひょう)である。いやが上にも見ないわけにはいかなくなった。食事を終えて一馬は、その出走馬リストに目をやった。

JRAプレミアムレース」と印刷されている。「東京優駿(第75回日本ダービー)」であり、2005年生まれの頂点へ!とサブタイトルがつく。6月1日(日)東京競馬場、芝・左2400mにて行われる。今年はフルゲートの18頭、全て牡馬(おとこ馬)の出走である。

JRAのG1・PRには俳優の佐藤浩市が起用された。彼の誕生の星座は、いて座である。この誕生星座いて座の人馬宮は四大元素の火に関係していて、「火のサイン」に分類される。

『課長、深刻そうなお顔ですこと、ちょっと怖いわ・・・』とS嬢が呟いた。花厩舎はハッと我に返って目を上げた。『ああ、ごめん、ごめん。ちょっと考え事をしていて』『またなにか閃いたの?』彼女は先日の桜花賞の予想が余りにもセンセーショナルだっただけに、その事が心から離れなかったのだ。

『いや、まだピンと来ないのだが、この佐藤浩市の誕生星座は、いて座なんだよ。そして射手座は火のサインをあらわしている』『素敵〜!佐藤さん大好き。射手座かあ・・・。そして火をあらわす。となると一頭いるわよ』そう言ってS嬢は出馬表の一頭を指さした。

『ほらここに。2枠4番、タケミカヅチ。これはカミナリ(雷)でしょ、火そのものよ』『なるほど・・・』と花厩舎課長も頷いた。よく考えると、最近の世情は大災害、それもハリケーンや巨大地震が発生している。

古い諺に言う、『地震、雷、火事、オイル』親爺の権威が失墜しているので、困りもののオイルを入れてみた。いずれにしても充分資格を持った一頭である。一馬は4番の馬に赤丸を付けた。

土曜日の勤務は、時間には縛られない。みんながいなくなった「プレミアムオーク」にはS嬢と自分の二人だけになった。一馬は今回のダービーは自然現象で勝ち馬を絞り込もうと考え出していた。なかなか次の候補が見つからない。

(明日に続きます)

2011年12月22日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高232m>

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ありそでなさそな・なさそでありそな・お話


「花厩舎一馬(はなきゅうしゃかずま)の一日」より

平成20年ももう半ばの月を迎えようとしていた。ある大会社のシステム部の担当課長を拝命している花厩舎一馬、なんとも遊び心満載の名前である。

今日は五月最後の土曜日、本来なら会社は休みであるが、6月末の株主総会に向けての資料整理のため朝から出勤してきたという訳だ。大都会のビジネスゾーンも土曜日のためか人通りは少ない。36階の事務所に入って、周りの景色をみて少なからず驚いたのだ。

神宮の森の緑が萌えるように目に鮮やかである。いままでこんなにゆっくりと自分の席から外の景色を見たことはなかった。日常の業務は朝から晩までパソコンとの対面ばかりで、春の桜の景色も落ち着いてみないまま、もう6月を迎えようとしていたのだ。

インスタントコーヒーを啜っていたとき、ドアーが開いて隣の課に一人の女性の姿。北欧エリア営業部に所属するS嬢が出勤してきたようだ。休日出勤とて、普段のフォーマルな服装ではない。細身のジーンズに、薄手のジャケットを着ている。そして紙で
くるんだ花束を一つ手に持っている。ちらっと見ただけだが、ピンクのバラの花が見えた。
『課長、お早うございます。お忙しいのですね』と彼女のデスクから声がした。
しばらくすると、小さな花瓶に挿したバラが花厩舎のデスクの隅に置かれた。

『おおっ、綺麗だね。モーツアルトかな・・・』『よくご存知ですね、今朝お庭で咲いていたので・・・』とS嬢は言った。『土曜日くらいゆっくり休まないともたないぜ』『課長にそのお言葉をそっくりお返しいたしますわ』と言って笑った。襟元から微かにバラの香りがした。 

広い大きなフロアーにチラホラと仕事人間の姿が増えてきた。やはり土曜日、普段あれほど鳴り続けている電話が沈黙している。花厩舎はこの静寂さが好きで、たまに休日に出勤するのである。そうこうする内に正午になった。その時S嬢が近づいてきた。『課長お食事ご一緒しません?』『ああ、もうそんな時間か、じゃあ外にでるか』そう言って二人は高層ビルから、新緑で噎(む)せかえる地上に降り立った。

『北欧風のレストランが、先週オープンしたの。行ってみません?』『そりゃいいね、お願いするよ』二人は少し歩いて、大きな樫(かし)の木のあるレストラン「プレミアムオーク」に入った。土曜日の昼時とてけっこう混んではいたが、S嬢は奥のテーブルに進んだ。レストランの女性アシスタントに軽く会釈をして、花々の咲く小さな庭が見通せるテーブルについた。

『まだオープンして間がないのだろう。なのによく知っているね』『さっきの方、私のお友達なの。フランス語の教室でご一緒』『フランス語、習ってるの?』『ええ、言葉のなかで一番好きなの、だから』

先ほど擦れ違った女性のフロアーアシスタントが近づいてきた。なにやら二人で話していたが、どうやら今日のランチメニューの確認だったらしい。

その時、S嬢が花厩舎の目を見てそっと聞いてきた。『日曜日、日本ダービーですよね。課長のお薦めの馬、お聞きしたいわ』『そう言われてみれば、ダービーだったな。忘れていたよ』『3才のお馬さんにとっては、最高の競争なんですって?』と目を輝かせて話すS嬢は、もうすっかり競馬ファンのそれであった。

2011年12月21日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・今朝のポエム <標高231m>

【庵主のかくれんぼ】

        朝です、道です、汽笛です    

                               雪です、霧です、仄かです

                         傘です、小走り、小鳥です

                            たった一人のお留守番

                       夢です、ケロです、ツブロです



大雪の降った朝 雪の坊やがあらわれた Presented by Jun




2011年12月20日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高230m>

糟湯酒

さてお話を「糟湯酒」に戻そう。     「万葉集」巻五におさめられた山上憶良(やまのうえおくら)の「貧窮問答歌」は読む者にとって悲しく、酒の階級性なるものを感じさせてくれるのである山上憶良(やまのうえおくら)の「貧窮問答歌」とはこのようなものであります。

「風まじり、雨降る夜の、雨まじり、雪降る夜は、術(すべ)もなく、寒くしあれば、堅塩(かたしお)を、取りつづしろひ、糟湯酒(かすゆざけ)、打ちすすろひて、咳ぶかひ、鼻びしびしに・・・」と続きます。

ここに言う「糟湯酒」は、酒のカスにお湯をまぜた、酒とは名ばかりの飲料で、その肴はあら塩をなめながらすするが、セキやクシャミがでてしょうがないと言う類のものなのです。今日の酒粕とは違って、まことにお粗末な代物ではありますが、奈良時代にはこれが庶民の飲むお酒だったのです。江戸時代の初期、芭蕉と同時代の伊丹(兵庫県)の俳人、鬼貫(おにつら)に「賤(しず)の女や袋洗ひの水の汁」という句があります。

伊丹は関西で有数の酒造地ですが、そこに勤める女房たちが新酒の袋を洗う仕事を引き受け、その洗った水をもらってきて亭主に飲ませる風習があったそうです。これが「糟湯酒」なのですが、当時も庶民はなかなか、良い酒にありつけなかったようで、哀しくも切ない日常が窺い知れるのです。長屋の奥に走り込んでいく一人の女房が抱えている縁の欠けた酒壺。

『おっかあ、ありがとよ。おう、そこにおいてくれ。粗塩はと・・・』『あんた、今日はちょっとした肴、用意してまっせ』『なんや、その肴て?』『タ・ケ・ノ・コ』『ええ、タケノコ!どないしてんそんなええもん』『ほら、あの法勝寺さんの竹林、あこで・・・』

『おまえ盗人したんか?』『いいええな、竹の子ですやろ地下這うてえな、横手の道に出てましたんや。そやから・・・』
『ああ、びっくりした。ほなよばれよか』

そんな夫婦の声が聞こえて来るような気がして、ちょっと書き残して見ました。そういやあ、夕べ食べたタケノコ、どこに出てたんやろ・・・?

(参考:光文書院刊、東掘一郎著・話のタネになる本)




2011年12月19日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高229m>

糟湯酒

こう書いて「かすゆざけ」と読む。今日日本全国に日本酒の銘柄は5千ほどあるらしい。いや、眉唾(まゆつば)な数字ではなく、本当にそれくらいの数があるのだそうだ。

その中には当然、大きな酒造メーカーとは全く関係なく、小さな山裾の蔵元で作られている地酒も多くあるはずである。私はどちらかと言うと、地方の地酒の頑なさをこよなく愛する人間である。

そんな旨い地酒(秘酒)と肴(さかな)を求めて、結構全国を旅したものであった。旨い酒のあるところ必ず良い水が存在する。それは湧き出ていると言った方が適切な表現であろう。その代表的な地域が、灘五郷といわれる阪神間の六甲山麓である。

「宮水」という、ことのほか日本酒の醸造に適した水(六甲山の伏流水)が湧く有名な酒所である。その灘五郷に私を可愛がって下さった、今は亡き長部真知様がおられた。

大関酒造社長、文治郎様のもとに嫁がれた方であった。書画に造詣の深い、優しくも凛としたまさに日本女性の鑑のような女性であった。お正月には真知先生(私はこう呼んでいた)のお住まいを訪ね、新春のご挨拶と旨いお酒を頂いたものであった。

大きなお庭があって、お屋敷の中には年代物の酒徳利やらこもかぶりが保存され、建屋全体からなんとも香しい酒の香りが漂っていたのを今でも思い出す。『貴方、投扇興(とうせんきょう)のお遊びご存知?』と先生は私に問われた。私は何のことかサッパリ判らなかった。それはどうやら江戸時代の子供や、女性の楽しみだったようだ。それについては「投扇興研究室」様のこんな説明の記事があった。


『江戸時代の遊戯の一。台の上に蝶と呼ぶいちょう形の的を立て、1メートルほど離れた所にすわり、開いた扇を投げてこれを落とし、扇と的の落ちた形を源氏54帖になぞらえた図式に照らして採点し、優劣を競う。1773年(安永2)頃から盛行。扇落とし、なげおうぎ、とも言う』

生まれて初めて高貴なと言おうか、大奥的なと表現しようか、まことに優雅な一時を体験した。1mの距離がこんなに遠いものかと思った事はない。また日本の扇の複雑な形は風を送る道具にはなっても、風を切って飛ばすのには適していない事も知った。

だからこそ奥の深い遊技である。さすが姫路のお城のお姫様ご出身の先生は上手であった。私はその時こんな事を言って先生を笑わせた。『こんな美味しいお酒を頂戴してもう充分、舞い上がっておりますよ』だから点数は低いのだと負け惜しみを言った。

先生は『そうね、貴方のは“ちどり扇”ね』と言われた。千鳥足ならぬ、ちどり扇。言い得て妙である。青春時代の懐かしい思い出である。

(明日に続きます)



2011年12月18日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・トンビ <標高228m>

【トンビ(インバネスコート、二重まわし)】




大正時代から昭和の初め頃に一大ブームとなった男性用コート

和服の上に着ると袖が楽に動かせるのが特徴

英国のインバネス(恐竜で有名なネス湖の近く)が発祥の地

以前妹から『着るならあげるよ』との連絡

寒い妙高高原の冬 是非にといただいた

さっそく衣紋掛けにつるし 帽子もブラッシュアップ

戦前の生地や仕立てはひと味違うねと「したり顔」がでた

2011年12月17日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス <標高227m>

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ありそでなさそな・なさそでありそな・お話


「花厩舎一馬(はなきゅうしゃかずま)の一日」より

『それと競馬となにか関係あんの?』『おおありやで。ええか、ちょっとこの新聞見てみ』『なんで、普通の枠順が載ってるだけやんか?』
『わし、最近ちょっと頭にきてるのや。と言うのは、あの「ねじれ現象」ちゅうやつにな。なんとかせなあかんと、しょっちゅう思うてる』

『わからんか?この15番の馬』『これ?レジネッタ?小牧太の乗ってる馬やんか』『この名前や、これにわいの心の臓がビビッときたんや。ああ、大将おおきに。おお、ちめた〜。ぷふぁ〜。このビール、ばかうま』

『ほんまやし。この馬、反対に読んだらタネジレ。ちょっと変えたら、ネジレタやんか』『わかったか?ここや、この桜花賞はネジレレースやで。絶対大荒れや。わいはこのレジネッタの単勝で勝負や!!』

『単勝言うたら、一着の馬当てることやね。面白そうやん。私も乗ってええ?』『どうぞ。しゃあけんど、馬券購入は自己責任やで。外れても知りまへんで』『あほらし、そんな子供みたいな事、言いません』(影の声:今時の子供もっとかしこいで)

『あんさん方、えろうしんみりいってまんな。儲け口やったら私らにもご披露してもらわんと。なあ〜カアチャン』『さいですやん、花厩舎はんおせえてえな』

とまあこんな訳で、花厩舎課長とS嬢、割烹の大将と奥さんの4人は、騙された気分で、この15番の馬、「レジネッタ」の単勝をそれぞれ1万円ずつ購入したような事で、はい。

明くる日の土曜日、課長はNETで購入したのです。桜花賞の当日、413日の日曜日、課長は近所の川の清掃奉仕とかで一日中川の中。競馬の事など気にもかけてませんでした。

その晩、清掃隊の打ち上げでちょっと一杯飲んで帰ってきたのです。パソコンを立ち上げて、いつものようにE-メールの確認をやります。その時、ネット銀行から振り込みの通知が入っていました。なんやろなと思うてクリックした時、ハタと思い出した。ひょっとして、競馬当たったんと違うか?

口座の残高を見てこの課長驚いた。なんと、1736000円も増えている。一人当て、434,000円の払い戻しと云う結果でした。

ちなみに、この日の桜花賞の成績を見てみますと・・・。
1着 15番 レジネッタ
2着 18番 エフテイマイア
3着 13番 ソーマジック

払戻金は・・・。
単勝 15番 4,340
馬連 15-18 196,630
馬単 15-18 334,440
3連複 13-15-18 778,350
3連単 15-18-13 7,002,920円(全て100円単位の払戻額)でした


早速、花厩舎一馬課長はS嬢に電話をして、割烹・魚澄へ飲みに出掛けたのでした。ひょっとして、これが縁で課長とS嬢に何かがあったりするのかも・・・それはまた今度。

(結果・成績・オッズなどのデータは、必ず主催者発行のものと照合し確認してください)