2015年1月21日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・【男達の黄昏・・そして今(23)】(標高 1061 m)


【男達の黄昏・・そして今(23)】

 まあそんな難しい事は、黄昏班のメンバーは知るよしもないのですが、みんなそれぞれの考え方を話し出しました。この会議には「お客さん」は必要ないのです。「全員参画」が最も大切なのです。『そやな、その黒縁のメガネやけど伊達ちゃうか?ただしそれは保育園に寄付した男と同一人物と仮定しての話やけんど。』徳さんがまずこう言いました。
『野球帽なんかは、中年男性はしょっちゅう被っているから珍しないな。』と周さん。『髭面なあ・・・。鶴さんが3丁目の東屋で男を見たのは4月の初めやったな、あれからもう一月半や、髭も生えるちゅうもんやで』と哲じい。『デイバッグ・マスコットなしか・・・辛いな〜・・・』。鶴さんもここが決め手と思っていただけに拍子抜けのような感じがしたようです。

 『でもこの男性が、それが趣味だったらどうなのかしら?』と天宮さん。『趣味?どう言う事だんねん。』と哲じい。『いえ、これは仮にそんな事も無いとは言えない程度の推測ですが、例えばメガネは伊達メガネ。髭も付けヒゲ。ちょっとした化粧、まあ素人の芸人ならよくやる程度の事だと思いますわ』。『変装おたくか。う〜ん、ありうる話やなあ。』と周さんが顎にこぶしを当てて言った。『ほな、なんでっかこの5丁目へ来た男は既に変装していた?・・ええ〜っ、まるでスパイ映画やな。』と尾行した沼ちゃんが素っ頓狂な声を上げた。彼はまるで自分が、007ジェームスボンドのお話しの中に出てくるどこかの国のエージェントになったような気分のようです。

 『まあ、そんな事もあるかもね。あらゆる可能性を考えるのが大切では。』と天宮さん。その時沼ちゃんが言いました。『天宮さん、まるで本職の女刑事さんのよう!』『へへへ・・・』と恥ずかしそうに笑った天宮さんの顔の裏には確かな手応えを掴んだ自信が漲っていました。しかし黄昏班の男達には何も見えませんでした。見えたのは彼女の美貌だけでありました。

 黄昏班ではここまで網を張ったのですから、この後の動きは警察にお願いした方が良いという結論に達したようでした。これからは危険が伴うといった危惧もあったのです。今まで同様、先生宅の張り込み、5丁目周辺のパトロールは継続して進める事にしました。周さんは一人、自分の胸の中にある事を暖めていました。それは『縫いぐるみ』を寄贈した男、仮に彼の名前を『ミスター・ドール』と名付け『ミスター・D』と呼ぶことにしました。彼は『ミスター・D』は、山麓保育園と何らかの線で繋がっていると判断しています。それが判れば今回の『ミスター・D』の行動やこれからの動きがロジックとして構築出来ると考えていたのです。

 彼は自分なりにそれとなく調査してみようと考えていたのです。天宮真智子さんが既に山麓保育園を訪ね、「黒縁メガネ」を警察に持ち帰った事などは全く知りませんでした。そんな事を考えていた時、ある光景が彼の脳裏をよぎりました。それは今日『明石屋』での出来事でした。沼ちゃんが何気なく言った一言、それはこうでした。『天宮さん、まるで本職の女刑事さんのよう!』『へへへ・・・』と恥ずかしそうに笑った天宮さん・・。この光景は一体何なのだ。沼ちゃんの問いかけを否定もせず笑って済ませた天宮さん。そう言えばいつも我々『黄昏班』が集まる時間に遅れることなくやって来るタイミングの良さ。これは何かある!そう考えた彼は、すぐさま携帯電話を手にしていました。

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