2012年8月31日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち <標高437m>


【透かし俵・クスサンの登場】


別名「スカシダワラ」と言います。蘆(ヨシ)の枝にしっかりと張り付いています。細かい網(繭・マユ)の中に蛹(サナギ)が入っています。その上をもう一枚の網がかかっていて雨水を遮断しているようです。


この蛹(サナギ)はイリュージョン並みの不思議な業で「籠抜け」を演じるのです。こんなに大きな蛹(サナギ)が形だけを残して、中の住人は羽化してしまうという離れ業です。この籠抜けの話は、2011年4月18日と20日のブログに詳細をアップしています。


(クスサンの晴れ姿:石黒 通信氏撮影)

「クスサン(樟蚕)」こそこの繭(マユ)の正体です。大型の蛾の仲間ですね。夜の灯りにやって来たときは、バタバタと羽ばたく音がしてあまり気持ちの良いものではありませんが。大きな二つの目の模様は天敵から逃れる「擬態」の一つでしょう。

昔はこの繭で糸を作ったのです。「栗綿」と言って布の材料になったのです。また幼虫の体内から取り出した糸は魚釣りの「テグス」にも活用されました。でも最近はそのような事は聞きませんね。この蛹もボクの知らない間に羽化してしまっていることでしょう。

(庵主の日時計日記:自然と私)より



2012年8月30日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち <標高436m>


【ヒナカマキリ】 地域減少要注意・新潟市







日本で一番小さいカマキリです。新潟市では2005年に西蒲区の海岸部での確認記録があるだけとの事です。
大きさは雄12〜15mm、雌は13〜18mmととても小さなカマキリです。全体に暗褐色であり、なにしろすばしっこいので
見つけるのも苦労するとの事です。常緑樹の森の中で葉っぱの下に棲んでいますので人目に付かないのが実態です。
カマキリが持っています翅は雌雄とも退化して小さく鱗片状となって残っています。

この昆虫は新潟県が分布の北限になります。頑丈な前脚で小さな虫などを捕まえて食べています。
ボクがこのヒナカマキリと出会ったのは、8月28日の夕方5時頃でした。薪置き場の杭の上に今まで見た事も無い小さな虫が西日を受けてとまっていました。早速カメラを持ち出して手早く写したのが上の2枚です。一飛びすればもうおさらばです。人生で初めての出会いの昆虫です。祈る様な思いでシャッターを切りました。

その後『Who are you ?』と呟きながら調べるのですが、なかなかその名前が特定出来ませんでした。「新潟市の希少種・絶滅危惧種・減少個体」のデータを調べていた時、「ヒナカマキリ」の雌だろうと判明しました。
今は嬉しい気分でいっぱいです。また珍しい生き物を探して
『瞬間の旬』を求めて歩く事にしましょう。ではまた。

(庵主の日時計日記:自然と私)より


2012年8月28日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち <標高435m>


【カシワの木にカブトムシが】


カシワの木が虫の好きな蜜(樹液)を出しています

そこにやっぱりカブトムシの雄(♂)とカナブンが

やって来ました みているとカブトムシの伸ばした足は

『ここからは入ってくるな!』とのテリトリー宣言です

下の足でアリを追い払い 上の足でカナブンを威嚇しています


この木肌にはコウチュウの雌雄が二匹 重なるようにして

蜜を嘗めています この虫はケシキスイの一種だと思います

口にカミキリのようなハサミ状のものがあります

ここには蝶やスズメバチなども集まってくるのです

この木が蜜(樹液)を出すのは シロスジカミキリなどが

木に卵を産み 羽化して棲んでいた穴からも出ているようです

こうしてみんなが集まって来てけっこうホジホジしています

カシワの木もその刺激を受けて 甘い蜜(樹液)を出すのでしょう 

(庵主の日時計日記:自然と私)より




2012年8月27日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち <標高434m>


【クジャクチョウ 再登場】


翅をたたむと特にどうってことない普通の蝶です(タテハチョウの仲間)


そのうちにちょっとだけ ゆっくりと翅を開き出しました

        なんだか見た事も無いような きれいな模様の羽が!



全開してくれるのを待ちます 大きな虎の目のような
               
 トロピカルな色合い これでもか これでもかといった

 感じの繊細な模様の配置 今夏再会のクジャクチョウに

心から『ありがとう』と言った朝のサプライズでした

(庵主の日時計日記:自然と私)より

2012年8月26日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち <標高433m>


【シロスジカミキリ】




日本で一番大きなカミキリムシです

触覚の長さはこのカミキリを一層大きく見せています

手でつかむとギと鳴きます

足の鋭い爪も服などを掴まれるとなかなか取れません

なんといってもそのペンチのような噛み切り口

こいつに噛まれた際はザックリと深い傷から血が噴き出しますよ

捕獲するときは手袋を履いておくと安全ですね

ちなみにこの背中の模様 どうみても黄色味を帯びています

死んだあと白い筋模様にかわるのでそう名付けられたのか

名付けた人が『死んだ個体』を見てそう名付けたのか?

それは伺い知れませんが どうやら後者でしょうね

このカミキリムシの大きさは6センチほど 触覚の長さを

勘定にいれると 10センチはゆうに超えるでしょう

(庵主の日時計日記:自然と私)より




2012年8月25日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高432m>


【オオシオカラトンボはすごいぞ】


この細い枝にとまっていたオオシオカラトンボの雄(♂)

サッと飛び去ったかとおもうと 大きなアブをくわえて

枝に戻って来ました もうすでに頭にかぶりついてムシャムシャ

シオカラ色に染まった美しい姿ですが その本性は獰猛な肉食系です

(庵主の日時計日記:自然と私)より

2012年8月24日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高431m>


【キベリタテハ・再登場】






タテハチョウの仲間です レースを施したような しゃれた黄色の縁取り

瑠璃色の星を並べた斑列 黒褐色の天鵞絨(ビロード)を纏った翅(はね)

玄関先に小さい砕石を敷きました どうやらその石の表面を嘗めに来ているのです

数匹の蝶が周りを恐れず 黙々と石を嘗めている様子は 見ていて感動ものです

カルシウムか塩分か いずれにしても彼らの生存に必要な何かがこの小石に付着しているのでしょう

(庵主の日時計日記:自然と私)より



2012年8月23日木曜日

2012年8月21日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・お疲れさん<標高429m>


【オニヤンマ 満身創痍】


こんど雨が降ったら この子は土に帰るだろう

妙高高原の梅雨の終わり頃に生まれ

霧の朝は森の奥に体を休め

良く晴れた日 芝生の上を飛び回っただろう

母として子供を残し いままさに命尽きる寸前

それはお前の翅(はね)が全てを物語っている


せめてこの落葉松(からまつ)の新芽の蔭で

最後の休息をさせてやりたかった

でもその願いは叶わず 一陣の風に舞い上がって

深いブッシュの茂みの中に堕ちて行った

この日のお前をいつまでも忘れないよ

(庵主の日時計日記:自然と私)より

<落葉松の新芽:G・N 氏撮影>






2012年8月20日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・夏と秋のあいだに<標高428m>


【胡桃(クルミ)のおちる林道】





夏と秋のあいだに

季節は光と陰を追い

胡桃(クルミ)は枝をはなれ

忘れ去られた捕虫網は

風をはらんで炎天の童たちを想う

オオルリのヒナはいましも

産毛(うぶげ)をふるわせながら

遅まきの旅立ちの朝をむかえた

熊よけのラジオからは

井上陽水の『少年時代』が流れ

誰もいない森の小径には

倒れた木がアーチにかぶさって

夕暮れの寂しさがひそやかに

仮面顔ですり寄ってくるのだ

胡桃(クルミ)の落ちる林道には

腰痛をこらえて拾い歩く自分がいる

(庵主の日時計日記:今朝のポエム)










2012年8月19日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高427m>


【トノサマバッタと話す】


さすが君はバッタの王様だね

王様は西洋の呼び方ね 日本では『殿様』なのよ

それとなかなかしっかりした翅(はね)を持ってるね

 そうね 危険が迫って来たら一気にバッタバッタとひとっとびだわ

鎧(よろい)を着た女剣士の風貌も素敵だな それと筋金入りの足も

ほめてくれて嬉しいは こう見えても体形を維持するのに苦労しているの

何を食べてそんな体になっているの 参考に教えてよ

パンダのように笹も食べるしさ 肉食系もけっこういただくわ じゃ

☆ ★ ☆

そう言って雌(♀)のトノサマバッタはあっという間に飛び去りました

あとには爽やかな秋の風が吹いて 熊笹の葉を揺らしています

(庵主の日時計日記:自然と私)より

2012年8月18日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス<標高426m>

日本旅行協会 『旅』一月号、昭和七年一月一日発行を読みながら。「バック・トウ・ザ・パースト(時を戻して)」  第 


國旅行心得帳」なる小能四點氏の文章を拝見する事に致しましょう。日本旅行協會「旅」昭和七年一月號より。

北海道——奥様、無頼漢には等々

奥様にとっては炊事が苦痛なところで、漬物石は寒いし、中味は凍ってゐるし、まるで泣面をして漬物を出して來るといふ圖はよく見受けられる。美味求眞組所謂惡食家には、アザラシの肉から馴鹿(トナカイ)の胎兒こいつは素的にうまい、せわた背の腸だ鮭の背骨についてゐる黒血で、この鹽辛で熱いところをキューと一杯やるときは舌の行衛が怪しまれる。鮭のハラワタの鹽辛めふんこれまた捨て難い。

寫眞好きには、嚴冬の霧華は是非旅行家の記念の撮影をして帰る値打ちがある。樹が白く結氷した状景は、花咲爺ではないが手を拍ってその美觀を讃へずにはおかないだろう。

ナンセンスな諸君にとっては、冬の北海道は實に退屈なところであり、無頼漢にとってはこんな自由な天地はない、狩獵家にとっては下手でも多少の獲物はあるし、勇敢であれば熊は何時でも狩獵家諸君を大掌を擴ろげて待ってゐて呉れるし、野菜好きには、キャベツや、殊に馬鈴薯の美味しさは北海道が天下獨歩だ。

スポーツマンにとってはなだらかな斜面、至るところに純白な處女地あり、冒險家にとっては大雪山頂にコロボックル(蕗の葉の下の人種)と格闘するのも興深いものであるだらう。

<庵主からのお知らせ>

さて次回から新しい記事をご紹介致しましょう。とは申せ、昭和7年1月1日発行、日本旅行協 「旅」より、棟方銀嶺氏の「静かな奥伊豆温泉」なる一文をご紹介致します。早速棟方銀嶺氏の経歴などを調べてみましたが、私の浅い知識では見つけ得ませんでした。ではお楽しみに。



オオハンゴンソウが晩夏をつげています

(庵主の思い出日記:時を戻して より)続きます






2012年8月16日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高425m>


【キベリタテハ】


タテハチョウはとまっている時 翅(はね)を立てているので

そう呼ばれているのです こうして開いてくれると美しい模様が

現れて『なにこれっ!きれい!!』となるのがタテハサプライズです

この大型の蝶は(60〜80mm)中部地方から北海道の山岳地帯に棲んでいます

黒褐色の地に黄色の縁取り 瑠璃色斑列が素晴らしいコントラストを

描いていて タテハチョウの中でも風格を感じる一種であります

今朝 隣家の玄関口に入り込んでいたのを捕獲したものです

(庵主の日時計日記:自然と私)より



2012年8月14日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・お盆の妙高山の風景<標高424m>


【ぶらりご近所】


お天気が悪い午後 杉野沢の田園地域より妙高山を望む

いまにも降り出しそうな灰色の雲がかかっています

田んぼでは稲がずいぶん大きく育っています

このまままっすぐお山に向かって歩いて行きたい衝動にかられました


田んぼののり面に大きなアジサイの花輪が出来ています

ちょっと遅かったのでしょうか 一部の花はドライ化していました

遥か彼方に妙高山の崇高な姿がみえています

お盆の日にお山に向かって合掌し 震災地復興と世界の平和を祈りました 

(庵主の日時計日記:自然と私)より

2012年8月13日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高423m>


【トンボの楽園 妙高山麓】


ミヤマアカネをはじめとするトンボたちの生まれでる田園地帯です このあたりでは川よりも水田や小溝が彼らの命をつないでいます


ミヤマアカネの成熟した雄(♂)の姿 羽根の縁紋まで真っ赤にかわりました


このトンボはマユタテアカネの雄(♂)です ミヤマアカネが ゆったりと飛ぶのに対して すばしっこく敏捷な飛び方をします
          
お盆を過ぎて冷たい風が吹き出すと トンボたちも産卵を終えて 子孫を残してどこへともなくいなくなってしまうでしょう
 
兵庫県の逆瀬川では11月を過ぎても活動をしていますが ここでは9月中頃まででしょうかトンボたちの華麗な姿に感謝と感動です

(庵主の日時計日記:自然と私)より
              

2012年8月12日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高422m>


【エゾゼミの異変】


去年は7月後半からにぎやかに鳴き出したこのエゾゼミ

背中のマクドマークが面白い大型の蝉です

ギイ ギイ ジイ ジイと弦楽器の低音を弾く感じの鳴き声

羽化したあとは落葉松(からまつ)やドイツトウヒの天辺で鳴くので

写真を撮るのは 羽化しているときか その直後が狙い目なのです

そのエゾゼミが今年はほとんど鳴きません 

短くなく声を数回聞いただけでばったりと止まってしまいました 

妙高高原になにか異変が・・・

やはり冬の豪雪が影響しているのでしょうかね? 

(庵主の日時計日記:自然と私)より

2012年8月11日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高421m>


【トンボの王様・オニヤンマ ♂】


いよいよオニヤンマの季節がやってまいりました

都会では今やプラチナトンボ なかなか出会えませんね

自分の縄張りを丁寧にパトロールする姿を見ていると

昔の重爆撃機の風格がありますね それにひきかえ

アカトンボたちはまさに戦闘機・零戦でしょうか

補食する生き物は蝶・小型のトンボ・蜂・アブなどです

オオスズメバチとは良い勝負で たまには襲われる事も

卵から水中でヤゴの生活に入り 羽化して成虫になるまで

3〜4年 長いものになると5〜6年もかかるそうです

(庵主の日時計日記:自然と私)より







2012年8月9日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高420m>


【シュレーゲルアオガエル】

英名:Schlegel's Green Tree Frog
学名:Rhacophorus schlegelii 
(「シュレーゲル氏のアオガエル」の意味)




仲間にはニホンアマガエルやモリアオガエルがいます

英名のグリーン・トリー・フロッグはその名をよく

表していると思います いつも緑にとけ込むようにして

とまっています オランダの動物学者シュレーゲル先生

の名前がついたおしゃれなかわいいカエルちゃんですね

ニホンアマガエルよりも一回り大きいです(4~6㎝)

(庵主の日時計日記:自然と私)より






2012年8月8日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高419m>


【ヘビトンボ】



コンチワ おら庵主さんの畑に棲む ヘビトンボだっさ

オイラの小さい頃は水の中で生活してるんす

みんなオイラのことをカワムカデと呼んだり

孫太郎虫と言ったりするっす 役者じゃろうて

幼虫の頃は水の中で水生昆虫を食べとるがや

でも大きうなってこんなヘビトンボに生長すると

こんどはクヌギの樹液などを吸って生きとるんぜよ

人間様は幼虫を薬として食べる人もおるし 

ザザ虫の佃煮にして酒の肴にする地方もあるってな

いずれにしても強面(こわもて)昆虫の筆頭格ってよ

今回初お目見えだわ これからもよろしうたのま

(庵主の日時計日記:自然と私)より



2012年8月6日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・妙高高原の生き物たち<標高418m>


【モリアオガエルの午睡】

ここは涼しい渓流のそば ウドの木にしっかりと

つかまってウトウトウト・・・・

どうです それにしても大きな口ですな 

体の色や皮膚は爺さんガエルの風格を感じますね

オ〜イ ここまで降りておいでよ

君の好きなルバーブジュース 冷えてるよ

もう一眠りしたらお言葉に甘えてそちらのほうに

自分も爺さんのくせによく言うよ ムニャムニャ・・

(庵主の日時計日記:自然と私)より




2012年8月4日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・渓流の女王 イワナ<標高417m>

【イワナの骨酒】



近いうちに隣人が避暑に来られるとの連絡があった

という事は イワナの骨酒を振る舞わねばなるまい

いつもの渓流で朝5時から竿を出してみた

新しい釣り場を選んでそっと毛針を落とし込んだ

その時バシャッと水音をたてながら追って来た

そしてやっと喰い付いたのがこのイワナ

多くは釣らない 明日もう一匹ヒットすれば

今回の目的は達成する 小さな渓流では小滝に

数匹のイワナしか棲息出来ない ありがとう渓魚たちよ

(庵主の日時計日記:自然と私)より

 

2012年8月3日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・大切なもの<標高416m>


【思い出を紬にのこして】


ボクの大切な友人が 彼女のおばあさんの着物をほどいて
マットにリフォーム その思い出の一枚を頂きました
紬の着物の敷き物は昭和初期の香りがするようです


ウッドデッキのテーブルセンターに使わせていただきます
江戸切り子の器に蘭や山野草を家内が生けてくれました
朝の一時 パンをほうばりながら座っていると
優しさが感じられて とっても安らかな心になりました


(庵主の日時計日記:人の心)より



2012年8月1日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・言葉のアーカイブス<標高415m>



日本旅行協会 『旅』一月号、昭和七年一月一日発行を読みながら。「バック・トウ・ザ・パースト(時を戻して)」  第



國旅行心得帳」なる小能四點氏の文章を拝見する事に致しましょう。日本旅行協會「旅」昭和七年一月號より。

<北海道——感傷者には>

啄木の立待岬があり、トラピストの修道院あり、アカシアの花、少女の憧れのスズランあり、センチな人々にとっては将に寶庫の感がある。

冬の感傷的對象となると、また頗る異國的な題材が多い。街を走る橇これなどは冬の旅行者にとって唯一の好目標だ。

演奏旅行にやって來た、本居長世氏などは愛嬢を馬橇に乗せ、鈴の音を立てながら、餘り廣くもない市街を幾度も幾度も橇を往復さしたりしたものだ。

吹雪これは如何なる名音樂家も、吹雪のその音樂的階調には敵はんだろう。ストーブの暖かさと、情熱とにぽっと顔を上氣させ、二人は戀を語ってゐる。戸外にはまさに冬から春に入ろうとする、低いが非常に激しい物音、氷の割れる音が聞こえてくる。——と書き出して來ると何だかトルストイ翁の小説の一章を語ってゐるやうだ、斯くの如くトルストイの小説の如く、雪國の冬は詩的であるのだ。

北海道——寒がりには

外出には寒いが、室内生活はまるで南國の暮らしである、これが北海道、樺太の冬の生活を語る全部だ。旅行者にとっては、なまじい一流の旅館になど泊ると、お體裁のストーブなど設けられてゐるから寒い目に逢ふことがある。

中流以下の宿の方が冬の旅行者にとっては氣樂だ。だから宿でをさまってゐることよりも、さっさと外出して訪問先で温まることだ。雪國では來客の顔を見ると、座布團をすすめるより先にストーブに薪なり、石炭なりを投ずる、これが唯一の誠意ある接待法である。

帰ると言ひ出すと、それぢや一温りあたたまってお帰りなさいと、火を盛んに燃やすといふやり方で、火は親切の象徴だ。夜の寢床には湯タンポがあり、雪路には防寒靴があり、田園的な藁靴があり、吹雪襲來には目ばかり出た毛糸の出目帽があり、寒氣防衛には至れり盡くせりの感がある。

殊に冬に入る前、開けたてをしないやうな戸硝子や窓には、日本紙で目貼りをするのだと説明しては、成程室内は暖いだらうと讀者は納得してくれるだろう。



(庵主の一言)

たしかに厳冬期は、都会の生活より雪国の方が部屋の中に限って言えば暖かいように思える。薪ストーブは石油や電気ストーブにくらべると優しい暖かさ(日だまりの暖かさ)が得られるし、燃やす木によっては、とっても良い香りが漂うのも嬉しい事だ。お客が来られると、とっておきのどっしりとした広葉樹の薪を入れて暖まっていただくのも、誠意ある接待法であることは昔も今も変わらない。

(庵主の思い出日記:時を戻して より)続きます