2012年2月29日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・晴天の恵み<標高299m>




すっぽりと雪に包まれ 囲まれた 我が家


杉の森の奥に黒姫山が姿を現しました


久しぶりの晴天 パウダースノーを踏みしめて
どこまでも歩いていけます ギシギシと足が鳴ります

Presented by Jun

2012年2月27日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高298m>

アマン、ガマン、ゲロッポのお話 1 

良い子の皆さんこんにちは。今日から【アマン、ガマン、ゲロッポのお話】が始まります。みんなの好きなケロたちの物語じゃ。もうすぐ春が来て小川の中にオタマジャクシが泳ぎだすだろう。そうするとケロたちの季節がはじまるぞね。だで小さな生き物もかわいがってんや。



小父さん役のゲロッポはトノサマガエルの鯔背(いなせ)な、いで立ちでした。アマンはと言いますと、可愛いまだ少女の面影が残るアマガエルでした。問題はもう一匹の、ガマンです。

アマガエルの仲間ですが、水中雨蛙の出身でした。水の中でじっとしている時間が長いので、ガマンと名前を付けられたようでした。

もう6月も梅雨が終わろうかという暑い夏の午後のことでした。アマンはとっても暑いので木の上の葉っぱの蔭にぴたっとひっついて眠っていました。その木には先ほどから大きな青大将(へび)がこれも涼みに来ていました。

青大将は木の上の枝に長い尾っぽを絡(から)めて、首を細長く伸ばして風の匂いを嗅いでいます。その時何気なく見た下の枝に小さなカエルがちょこっと止まって眠っていたのです。

ちょうどお腹が空いていました。『しめしめこれは良いおやつじゃ、早速頂く事にしよう。ウヒウヒ』と、長くて赤い舌を二本、ペロンチョと伸ばしました。

下にいるアマガエルのアマンはヘビが自分を狙っている事など全く知らない様子でした。青大将はもう少し近づこうとお腹を揺らせて枝をスルスルと降りていきました。音をたてないように、アマガエルを一呑に出来るところまでやってきたのです。

『うまそうだな〜あ、さあて頂くことにするか。』そういってグット首を擡(もた)げて大きな恐ろしい真っ赤な口を開けたのです。ぱくっと一気に呑み込みました。『ごっくんちょ、うめえ〜え。久しぶりのカエルじゃわ。・・・ありゃ?食ってねえぞ。失敗じゃ!』そう言ってもう一度やり直しと前を見ましたがアマガエルの姿はもうどこにも見えませんでした。

それもそのはず、アマンは木の枝から下の川の中に落ちていたのでした。青大将がアマンを呑み込もうとしたその時、風がひゅ〜っと吹いてきて、アマンを掬い上げるようにして下の川の中に吹き落としたのでした。

2012年2月26日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・森の中のスイーツ工房 <標高297m>


カシス&ラズベリー ババロア(21㎝丸形)

ババロア生地にラズベリーとカシスジュース

で作ったゼリーをのせてみました

2012年2月25日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高296m>

連載小説 【あり地獄】最終会

宇野と祇乃は朝から車を西に向かって走らせている。車は早くも福島県を過ぎ、新潟県に入っていた。朝から走りづめである。今日は新潟で一泊をして明日の朝早く出立すれば、松山にはその日の内に着くだろう。今日の泊まりは、信越国境の妙高高原辺りにしようと考えていた。


妙高高原ICを出たのは、夕方5時頃であった。祇乃は昔、一度だけスキーに来たことがあると言った。宇野も大学時代、友人と冬休みには志賀高原や赤倉を訪ねていた。そんな関係で少しは土地勘があったのである。

というよりも今でも時候の挨拶を取り交わしている、ペンションのマスターがいた。今夜はそこでやっかいになろうと決めていたのである。祇乃も子供のように明るく喜んでくれた。予め連絡をしておいた、妙高山麓のいもり池畔に建つ瀟洒なペンションへ着いた。プチペンション『エーデルワイス』は60過ぎのマスターと奥さんの二人で経営している。森の中の静かなペンションである。まだスキーシーズンには早いためだろうか客は宇野達だけであった。ペンションのオーナーは二人を見て、特に何も聞かなかった。あくまで夫婦の扱いをしてくれたようだ。部屋も妙高山が見える一番良い所を用意してくれていた。

宇野達が声を掛けるまで、何も聞かず、部屋を訪ねることもなかった。隠れ旅の二人にとって、それがなによりの持てなしであった。静かに暮れていく妙高山の景色のなかで、信二と祇乃は初めて口づけを交わした。

まるで何も知らない、青年同士のようなぎこちなさであった。明日から実生活へスタートする前夜、二人はマスター夫妻の心づくしの夕食を心底楽しんだ。誰が見ても型の良い夫婦であった。マスターも後で、『あの時はまだ夫婦じゃなかったの?』と驚いたほどであった。


宇野信二は、祇乃の母親に会って事の全てを話し了解を得られるまでは祇乃の奥には踏み込まない決意であった。それがせめてもの彼の祇乃に対する愛の証であると思った。祇乃の安らかな寝息と、暖かい体の温もりとを感じながらその夜は満ち足りた深い眠りに落ちて行った。

備讃瀬戸大橋を一気に渡って、四国に入った。坂出を通り、車は高松道より松山道に入って行く。広々と拡がる田園風景の故郷へは、祇乃にとって高校を卒業して以来三度目の帰省であった。

宇野信二にとってもこの四国は若い頃、市会議員の選挙に打って出ると決めた時、心の修行の為に歩き遍路を体験していた。懐かしい風景が現れては消えていく。もう僅かで松山に着くのである。

祇乃は途中のパーキングエリアから母親にもうすぐ着くと連絡を入れた。母の喜ぶ顔が浮かぶようだと言った。

宇野の車は、田舎道を走って広い庭を持つ旧家に入って行く。畑の中で仕事をしている年老いた女性がいた。それが祇乃の母親であった。車から降りた彼女は転げそうになりながら、母の元に駆け寄っていった。その姿は母の懐の中に飛び込んで行く、祇乃の、遥かに遠く長い人生の旅路の「おきどころ」でもあった。

『かあちゃ〜ん』。そう言ったきり二人はただ抱き合って泣いていた。宇野はこの景色と風土の中にいずれ自分の働く姿を思い描いて山の端に目をみやった。畑の向こうには、一面のコスモスが風に揺れている。

気が付くと、祇乃の母が被りを取って宇野に深く礼をした。真っ黒い顔に汗の玉と涙の筋が光っていた。 


☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

『あとがき』

この『あり地獄』は、人間が、と言うより自分自身が心の中で知らず知らずの内に創りだしていく妄想や、思い煩い、恐怖心、不安感などが、現実世界に具体的な形となって現れてくること。これを仏教では「三界は唯心の所現」という言葉で表している。全ては己の心のなせる業なのである。病気に対する思いこみや、取り越し苦労、恐怖心などが、日々の生活を如何に制約し暗黒化していくかを別の次元で同時進行サスペンスの形で顕してみた。


さすれば日々明るい心で、「日時計主義」で生きて行くことの大切さを感じるのである。

2012年2月24日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・森の中のスイーツ工房 <標高295m>


今年も我が家にやってきました

「さつきファーム」の

無農薬夏みかんの面々たち

この夏みかんで作るマーマレードは最高です

朝のパンのお供に ちょっと喉が痛い時の「ほっとオレンジ」に

元気の源 ビタミンC の補強に 嬉しい自然の贈り物です

Presented by Jun



2012年2月23日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高295m>

連載小説 【あり地獄】15

朝早く目覚めた宇野は、川に面した部屋のガラス戸を開けた。深い渓の底から震えるような冷風が体全体を包み込んだ。久しぶりの心安らかな朝であった。祇乃が隣の部屋から、お茶を運んできた。


『祇乃さん、良く眠れましたか?』そう言って祇乃を見たとき、まるで初々しい花嫁のような姿、顔立ちがそこにあった。『ほんと、ぐっすり眠ることが出来ましたわ、何ヶ月ぶりかしら』。祇乃は宇野にあらためて朝の挨拶をした。少なくとも母親にきちっと教育された仕草ではあった。

『祇乃さん。松山へ行こう』宇野は正座してしっかりと云った。『本当!どうして?』その驚きの中に得も言われぬ祇乃の歓びの感情が見て取れた。『祇乃さんを、松山に連れて帰る。そうして貴女のお母さんにご挨拶したい』『ええ!母に?でも突然、どうして・・・』

宇野は、夕べあれから一晩中考えていた。祇乃の生まれ故郷を訪ねよう。年老いた母が一人で生活していると聞いた。祇乃の母親に今回の出来事の全てを話そう。そして自分の今回の償いが済んだら、正式に祇乃と一緒になろう。そして松山の祇乃の家に入って、母と祇乃と三人で農業をやろう。もう政治の世界に対する未練は微塵もなかった。また世間はこんな自分を許容するほど甘くはないと確信していた。

祇乃が新聞を持ってきた。初めて見る『津軽新報』である。小さな記事に目が止まった。そこには、二人の男が警察に逮捕されたとあった。関西の有名私立校不正入学に関係のある人物だとの内容であった。宇野はあの男達だと思った。祇乃が『迷ヶ平』で擦れ違った二人組。宇野の車にGPSの装置を取り付けたのも彼らの仕業だろう。

これで今すぐの危機は回避できた。心の中の重たい部分が消えて行くのを感じて体に活力が漲って来るのを感じていた。宇野は昨夜一晩かかって考えた事を祇乃に話した。彼女は宇野の膝に顔を埋めてしばらく泣いていた。『そうと決まったらすぐここを出よう。準備をして、祇乃さん』『はい!』明るい声が弾けるように宇野の背中に返ってきた。宇野は簡単な内容でこれからの行動について、信頼している神和住 学にメールを打った。

旅館の女将に、いずれ落ち着いたらゆっくり伺う約束をして玄関を出た。庭にいた、ごま塩頭の頭領が『旦那様も、奥様もお元気で』。と言って深々とお辞儀をした。二人はお互いに顔を見合わせて、苦笑した。

陸奥の国に冬が訪れようとしている、十月ももう終ろうとする寒い朝の事であった。

2012年2月22日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・森の中のパン工房 <標高294m>


ブリオッシュパン(仏:Brioche)はフランスの菓子パン(ヴィエノワズリー)の一つ。ブリオーシュとも書く。普通のフランスパンとは違い、水の代わりに牛乳を加え、バターと卵を多く使った口当たりの軽い発酵パンの一種である。

材料が焼き菓子に近いことから、発酵の過程を要するケーキ(仏gâteau 、ガトー)の一種とされることもある。名称はノルマン語で「(生地を麺棒で)捏ねる」を意味する動詞の古形「brier」(現代フランス語 broyer 「すり潰す」や英語 break 「破壊する」と同語源)から派生したもの。(ウキペデア参照しました。感謝)

焼きたてを試食してみましたが、ちょっとしたケーキ感覚でパン+カステラ地の食感でした。なにも塗らないで紅茶かハーブテで召し上がるのも一興ですね。


2012年2月21日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高293m>

連載小説 【あり地獄】14


『良いお湯でしたね、落ち着きました?』『久しぶりの温泉でした、有り難うございました』『ところで祇乃さん。こう呼ばせてもらって良いのかな?』『はい』。風呂からあがって、暮れてしまった外の景色を眺めながら二人の間には、すでに互いの心に潤滑油が塗布されたように感じられた。

『もう帰る所がないとは、どうして?』『逃げて来たのです。怖かったんです』。宇野は思いも掛けない祇乃の言葉に、まるで自分の今までの心の軌跡を見るようだった。

『聞かせてもらって良いかな?』『はい、お恥ずかしいことですが・・・』。
そう言って祇乃は浴衣の上に羽織った着物の襟を整えた。かすかに石鹸の香りが宇野の鼻腔をくすぐった。宇野も彼女の顔をしっかりと見つめた。

彼女は四国松山の出身。高校卒業後、大阪にて就職。その後友人の誘いで神戸に移る。ある宝石商社の女子社員として勤務を始めた。経営者である若社長の秘書のような仕事をしていたらしい。その内に若社長とよんどころない仲になり同棲をするようになった。

いわゆる社長の女になってしまったという。その社長が仕事の上で地元の高利貸より多大な借金をした。それがこじれて、黒い世界から追われる日々。その内に彼女の周辺にも闇の手が迫って来ていた。何度と無く見知らぬ男の訪問、会社からの帰り道のストーカー、追尾。いつ拉致されるかも分からない日々が続いたという。彼女は会社を辞める決意を若社長に伝えた。なんとその時祇乃は社長からひどい暴力を受けた。このままでは殺されると思い、ある夜男がいないうちに、着の身着のままでマンションを飛び出たのであった。

ジーパンにアノラックはその時着て出たものであった。四国の実家には少しずつそれまでに所持品は送り続けていたと言う。そして彷徨うように『迷ヶ平』へ。まさに彼女も『カタカムナ』の大いなる力に吸い寄せられたのであった。

宇野はその話を聴きながら、自分の環境よりも数段厳しいのを感じていた。それだけに祇乃が一層不憫に思えてきた。この女性は自分が守ってやらねばならない運命だとその時心に思ったのである。

宇野信二も今までの経過を全て彼女に話した。彼女は時折目頭に指をあてながら真剣に聞いてくれた。祇乃もその話を聴きながら、自分のこれからの人生に宇野が必要であると確信していた。

同じような境遇の男女が、それも『カタカムナ』の見えない糸で今一つになろうとしていた。それは生まれる前からの不思議な企らい事であったのかも知れなかった。

部屋の中にはスチームが通されていた。ほのかに暖かい久しぶりの安らぎの時間が流れていた。その時、祇乃が宇野を見据えてこう言った。

『信二さん、貴方は特に悪いことはしていないと思うわ。そりゃお金をもらったのは軽率だったとは思いますが、不正入学に手を貸した訳でもないし』。宇野もそう言われてみれば、出るところへ出て説明すれば、時間はかかってもきっと分かってもらえる。このまま逃げ続ける必要はないのではと心が傾いてきたのであった。

『祇乃さん、有り難う。死なないで済みそうだよ』『私も貴方と出会って勇気がもらえたようです』。二人は傷ついた心を癒し合う『連帯感』で堅く結び合った。心の中では既に一つに契りあえた、薄幸の男女にとって本州最果ての秘められた夜であった。外には木枯らしが忍び寄っていた。

祇乃の一言で、宇野信二の気持ちに変化が生じた。北の大地に渡る事なく、この出会いは二人にとって新たな人生の旅立ちとなるのであろうか。

2012年2月20日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・太陽に感謝 <標高292m>



久しぶりの太陽が帰ってきました 青空の下 

2階の窓際まで迫ってきた雪かきをしています

太陽の存在がこんなに有り難いものか

さあもう一汗かきましょう 大空に向けて

万歳をした昨日の朝 身も心も新生です






2012年2月19日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高291m>



連載小説 【あり地獄】13

『ところで、祇乃さん。あの迷ヶ平へ行かれたのはどうして?』と思い切って問うてみた。『あのまま霧にまかれて死んでしまおうかと・・・』祇乃はか細く答えた。


彼女の人生に何があったと言うのだろう。それ以上は聞かないでおこうと口をつぐんだ。『カタカムナ』の存在を知ってから、宇野の意識の中には不思議な現象が何度となく起こった。例えば『甲山』の山肌に『カタカムナ文字』が浮かび上がって、その形が何かを暗示していた事もあった。

それとなく祇乃に話してみた。彼女の意識の中にも同じような現象が起こっていたようだ。遠くから見る山肌に樹木が作り上げる不思議な紋章。そのいくつかを組み合わせて将来発生する現象が朧げながら予見出来たらしい。

車は南津軽郡大鰐弘前ICを出た。今日は、大鰐温泉で心の整理と、そして、芹沢祇乃との不思議な出会いについても二人で話さねばならないと宇野は考えていた。

『祇乃さん、これからどうされますか』それとなく聞いてみた。『私にはもう帰る場所はありません』と祇乃はハッキリと答えた。『今日の泊まりは大鰐温泉にしたいのですが』『宜しくお願いします。お邪魔でなかったらご一緒させて下さいませんか』。そう言って祇乃は頭をたれた。長い髪が落ちかかった。

宇野信二には観光という意識は全くなかった。これからの毎日をどう生きるのかを考える事で精一杯であった。大鰐町大鰐字湯の川原、茶臼山公園が近くの『大鰐温泉』。その中に一軒の旅館がある。大正ロマンあふれる湯の宿である。宇野は車を止めて、祇乃を見た。少し疲れているようだが、大丈夫と言ってかすかに笑った。

その時、宇野は車の底になにか見慣れない小さな機械が取り付けられているのを発見した。今までこんな物は無かった。取り外してよく見ると何かの受信装置のようなものであった。
宇野は白いセダンが、『迷ヶ平』に停車していたのが何故か分からなかったがこれで疑問は解けた。どうやらあの盛岡の夜のうちに、追跡する為に取り付けられたものらしかった。これで今すぐの危機は回避出来たと思った。祇乃には何も話さなかった。

平日の事とて、旅館の客はほとんど見えなかった。女将に引率されて今夜の部屋に案内された。芹沢祇乃は宇野から離れるのを拒んだ。何かに怯えているようだった。宇野もあえて断ることもしなかった。ともに脛にキズ持つ者同士の労りあいか、はたまた人の温かさへの渇望か、通された静かな部屋に取りあえずの旅装を解いたのであった。

山が迫っている。昨日今日の冷え込みで見事なまでの紅葉が見て取れる。窓際の二つの椅子に、先ほど会ったばかりの見知らぬ男女が座っている。まず考えられない光景である。それほど二人の置かれた立ち場は縺れて絡まった人生のモザイクそのものであった。

『祇乃さん』と宇野は彼女の目を見て云った。祇乃もその目を受け止めて『はい』とだけ答えた。『帰らなくて良いのですか?』『はい、私にはもう・・・・・』『失礼ですが、ご結婚は?』『一人です』。とぎれとぎれの会話ではあるが、それだけでなんとかお互いの心は通じあった。

『じゃ、僕一風呂浴びてきます』『私も』。そう言って二人は、階段を降りて静かな温泉に足を運んだ。『じゃあ』と言って宇野は殿方と書かれた暖簾をくぐった。湯につかりながら、目を閉じて、これから先どうしたらいいのか思いあぐねていた。

芹沢祇乃も、透き通るような肢体を白濁の湯に沈めてこれからの自分に起こってくるであろう初体験の日々に戸惑いを覚えていた。昨日までの『あり地獄』のような生活から、こうして解放された安堵感からか、知らず知らずのうちに泣けてくる女の性(さが)を、この湯に流してしまおうと心に決めていたのである。

2012年2月18日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・今朝の祈り <標高290m>


今上陛下の心臓の手術が無事に終わり

ご健康を取り戻されますよう

謹んでお祈り申し上げます

                      臣 じゅん


2012年2月17日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高289m>

連載小説 【あり地獄】12

目眩く陶酔から醒めた宇野信二の眼前に現れたのは、ダウンジャケットにジーンズといった出で立ちの女性であった。『大丈夫ですか?』と彼女は話しかけてきた。深い草の中に倒れ、手にゴルフクラブを握った宇野を見て奇異に感じた、と言うより、誰もいない『迷ヶ平』で人間に出会った事からくる安堵感から声をかけたと言うのが正解だった。

『ああ、大丈夫です。すみません』と宇野は女性を見上げて答えた。『貴女こそどうしてこんな所へ?』と立ち上がりながら話しかけた。何も答えず佇む一人の女。霧の底から舞い上がってきた『カタカムナ』の妖精の様な気がした。

『私、宇野信二と言います。ある事情でこの高原に来てしまったのです』ちょっと笑いながら話した。女性が微笑むのが垣間見られた。そこには少し安心したような仕草が見て取れた。

『わたくし、芹沢 祇乃、せりざわ しの、と申します。私もここにどうしても来なければならない気持ち。そう何かの糸に引かれるようにして・・・』そう言った途端、彼女は顔を覆って嗚咽したのであった。宇野はどうして良いかわからなかった。女性に突然目の前で泣かれる事ほど、男として狼狽える事はない。

『いずれにしても、下へ降りませんか?霧に撒かれると大変だ』『はい、お願いします。ここに来る前、変な男達に出会いました』『それは黒ずくめの男たちではなかったですか?』『そう言えば黒いソフトのような帽子を・・・』。

『やっぱり、奴らだ。でもどうしてここが』宇野は再び追われる者の恐怖心から暗澹たる気持ちになったが、この不思議な女性と出会って、今までとは違った何ものかが、体内に漲ってくるのを感じていた。

それはあの『迷ヶ平高原』の広大な大地の中で、『精』を放った不思議な体験がそうさせているのだと思えて来るのでもあった。女性の前を歩きながら、まだ乾ききらない『夢精』の痕跡を見た時、赤面して顔が火照った。かれこれ一時間ほど歩いて、二人は元の鳥居をくぐった。

宇野の車から少し離れた所に、白いセダンが停車していた。急いで女性を促して車を発車させた。宇野は十和田から東北自動車道に入るつもりで車を走らせている。途中一台の青森県警のパトカーと擦れ違った。まさかこんな展開に成ろうとは誰が想像出来ただろう。横に座っている、芹沢 祇乃と言う名の女性の年齢は、三十代半ばであろうか。横顔のすがしいその美しさは、若くしてこの世を去った母の面影にどことなく似ていると思った。

はるか遠くに八甲田の山容が望めた。ただだまって二人はその山を眺めていた。

2012年2月16日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・森の中のぶた饅屋 <標高288m>




雪とつららの おお寒 小寒

チロロン燃えるストーブ優し

ホカホカぶた饅 うれしいな

春はまだまだ雪の底 

呼んでみましょう『春よこい』

(庵主 朝のポエムより)

2012年2月15日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高287m>

連載小説 【あり地獄】11

賽は投げられた、とか、覆水盆に返らずとか言ってその行為を容認しつつ軌道修正するしかない。今となっては、戻るに戻れない宇野の心は千路に乱れていた。


一歩、一歩確かめるように歩いて行く。なだらかな草原がどこまでも続いている。そこは『迷ヶ平高原』と呼ばれ、急な登り坂の上に拡がる広大な高原である。宇野が今歩いているこの季節は都会では秋本番であるが、ここ高原ではもう初冬の景色であり、風の流れも冷たく寒い。

人の姿は見えない。どこからともなく霧が湧き上がって来て、急に視界を遮ってしまう。所々に大きな木が立っている。それが唯一の目印になってくれる。細い道が曲がりながら続いている。冷たい霧の粒子が頬を濡らして谷の方に流れて落ち込んでいく。宇野はその時軽い目眩のような感覚に襲われた。

体がいつもとちがって軽く感じる。歩いていく足がフワフワと少し浮いたような、まるで月面を歩く宇宙飛行士のような感じなのである。彼はそのまま『迷ヶ平』の草原の中に呑み込まれるように倒れ込んだ。

頭上を虹色に輝く雲が流れていく。どこからか龍笛の音が聞こえてくる。遠くの方から自分を呼ぶ声が・・・・。母の優しい笑顔が顕れては消えていく。ここは一体どこなんだろう。大きな岩が見えている。誰だか分からないがその大岩の上で手を振っている老人のような姿が見える。

長い杖のような物を天空にかざして、まるで祈っているようだ。朦朧とした意識の中で、宇野はあの岩の上の老人が『カタカムナ人』ではないかと思った。霧が晴れたとき岩の上にはもう誰もいなかった。

体全体が、快いしびれたような感覚に苛まれている。魂の奥底からの陶酔感がエクスタシーとなって波状的に宇野にまとわり着いてくる。その感覚が高い空に駆け上っていくと、しばらくするとスーッとまた落ち込んでいく。その瞬間彼は今まで経験した事のない『絶頂感』に襲われて意識を失った。

誰かが歩いて近づいてくるようだ。遠くの背の高い草の中を見え隠れしながらその姿は確実に宇野の方に迫って来ている。その時意識が戻ってきた。しかし体の中には、まださっきの陶酔感が残って痺れているのだ。

彼は下半身の濡れた様な感覚に気づいて愕然とした。なんと彼は『夢精』をしていたのである。あの陶酔感と絶頂感はまさに性的エクスタシーそのものであった。何故だ!疲れ切った体をこの広大な『迷ヶ平高原』に横たえた時、彼の体は得も言われぬ『大自然』との交合を余儀なくされたのかも知れなかった。この大地と自分とが一体になった事を無意識のうちに潜在意識の中に刷り込んでいた。

彼はすぐさま、汚れた『夢精』の処理をした。宇野は自分の中にまだ『性愛』への機能が保持されていた事に気づいていた。それは「迷ヶ平」の大地が与えてくれた『男性機能』への回復であったのかも知れなかった。

近づいてくる者は誰だろう。男か女か?それは、草原の中にまだはっきりとは見えていない。しかし確実に一歩一歩その距離は狭まっている。宇野は無意識のうちにゴルフクラブを握りしめている。まるで獣が狩りをするときのように草に隠れて身を伏せた。

その時でもまだ体の中をあの時の快感が薄れながらも駆け回っていた。なにか不思議な力の漲りが、彼の全身に注入された様に思えた。

一陣の風が霧を払い去ったとき彼の前に一つの影が射した。宇野は草原の中で体を硬直させぐっと奥歯をくいしばった。

2012年2月14日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・森の中のスイーツ工房 <標高286m>



今年のハンドメイドのチョコレートアラモード

四角い「パヴェチョコ(石畳)」

丸い 「トリュフ」

細長い 「干しリンゴチョコ(ポーム・ダムール)」




酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・森の中のパン工房 <標高285m>


ハム&オニオンロールパン


アンパン カマンベールパン


田舎風フランスパン

オーブンから焼きたてのパンたちが顔をだした

寒い雪の降る日も 森の中では香ばしいアツアツのパンが

出来上がっています 美味しいハーブテと一緒にいかが



2012年2月13日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高284m>

連載小説 【あり地獄】10


宇野信二が長い間、心の中に秘めていた『迷ヶ平』、そしてそこに今も眠るカタカムナの遺跡群。全ての存在するものの中心、神体山『十和利山』。この念願の土地をこのような訪ね方をするとは彼自身思いもしなかった。


しかし反面、このような時であるからこそ『憧れの地』へ引き寄せられたのかも知れなかった。その頃白いセダンの男達も県道454を進んでいた。周りは深い森であり十和田湖に続く道であった。

『おい、奴は今どこにいるんや?』年配の男が、運転をしている男に聞いた。『調べてみます』そう答えてサングラスの男は機械を触っている。なぜかしきりに首をかしげている。『早くしろ!』年配の男がどなった。『機械が上手く作動せんのですわ』とグラサンの男。『ばかやろう。ここで動かんとはどういうこっちゃ?』車は徐行から行き違いの少し広い場所に停止した。

『位置取りが分からんのですは』『なんでや』男達のやりとりは混乱していた。昔からこの地域は、コンパスが狂ったり、方向が機械で掴めない場所が存在すると言われている。大地の奥深くに我々には計り知れない何か不思議なものが堆積しているか、眠っているのかそれは誰も知らない。しかし日本の中でもそのような場所は他にも存在する。

富士山の裾野にひろがる、青木ヶ原樹海は有名である。東西南北が磁石に正しく表示されない、それらを狂わせる不思議な理化学的な何かが存在することは間違いがないが、原因はいまも謎である。

二人の男達も大変な場所に来た事を感じて、鳥肌が立った。一瞬腰が引けたのであった。これからは宇野の車をチエックするのは困難になるだろう。自分たちが道に迷う事だって有るかも知れなかった。

擦れ違う車もない。その上、あたりにはガスが立ちこめてきた。ガスの濃淡さが進むに連れて、『濃密』に変わって行く。狭い道の片側は崖、もう一方は深い峪である。センターラインの白さだけが唯一の頼りである。しばらくすると車は側道に迷い込んだのか、白線もなくなってしまった。

黒ずくめの男達は、自分の人生の中で最も不安な時間と『死』を意識する事の恐怖に陥っていた。ここにも一つの『あり地獄』が口を開けて待ちかまえていたのであった。

宇野信二は『十和利山』を目標に走っていた。かすかに見えていた山容が序々に大きくなってきた。それはまさに『甲山』とうり二つの形をした『神体山』そのものである。神々しい、二万年以前のカタカムナ人の魂の故郷がまさに存在していたのだ。

彼は車を空き地に止め、必要最小限の物だけを身に付けて靴はスニーカーに履き替えた。ゴルフ用の皮手袋をはいた。そしてゴルフクラブを一本杖がわりに持って、鳥居をくぐって『迷ヶ平』に足を踏み入れた。

十和田高原の聖なる山『十和利山』について少し紹介しておこう。十和利神社の記述によると、十和田高原十和利山に日本最古の神を祭り、その麓の『迷ヶ平』、田代岱二里四方に、神孫ニニギノ尊が都せられていたと伝えられている。その頃の時代までは、十和田高原は気候も温暖で景観も美しく神秘的であったが、その後『戸来』(へらい)あたり噴火十度に及ぶともあり、或いは二十一度びに大地変動となり、あらゆるもの災害を被ったと記載されているものもある。

もとより年代に就いては不明であるが、日本の古文献には記載されているものもある。十和田高原の聖なる山『十和利山』についてはこう記されている。太古の十和田高原は、聖地としてだけでなく、金銀などの鉱物が多く採取され名実共に『黄金郷エルドラド』を演出していたと伝えられている。

『迷ヶ平』『十和利山』はもとより、『謎の石の聖典』で知られる、『ドコノ森』も黄金探索によって発見された不思議な一帯です。『十和利山』周辺はあまりにも山が深く、素人などは『迷ヶ平』のごとく、遭難の危険も多いと聞く。この鬱蒼とした聖なる山の山中にはまだまだ私たちの知らない太古の残像が遺っていることだろう、と。

『迷ヶ平』『十和利山』を目指して、単身踏み込んで行く宇野信二は、はたして恐怖の『あり地獄』にはまり込んでいくのだろうか。

2012年2月11日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高282m>

連載小説 【あり地獄】9

メールを開く宇野の手が小刻みに震えている。夕食の時に飲んだ酒の酔いが残っていて少しは恐怖心が相殺されている。メールは、同僚の神和住 学からであった。その内容は、『警察が宇野のマンションの家宅捜査をした。そして封筒に入った現金を押収した。それはあのクラブで出会った男達の自白が発端になった。今では警察はお前を追っている。帰って来て本当の事を話すのだ』と言った内容が入力されていた。


一番恐れていた事が現実となった今、彼のなすべき事は二つしかない。一つは地元に帰って、真実を話すこと。その場合彼の政治生命はその場で断たれるだろう。そして長く鬱陶しい裁判が始まるはずだ。

もう一つは、このまま行き着く所まで行ってしまう。それが仮に最悪の状態を招いてもやむを得ない。自分には前者の状況に耐えられるパワーはもう残ってはいなかった。

今はただ、『迷ヶ平』へ何としても行き着く事が自分に課せられた運命のような気がしていた。今夜も睡眠薬を流し込んで目を閉じた。明日の朝は、4時に宿を出発すると女将に告げてある。支払いも夜の内に済ませてあった。

その頃、あの白いセダンの男達は、もう盛岡にはいなかった。彼らは既に宇野より先に秋田県に向かって走っている。宇野の車のナビが設定している十和田をキャッチしていた。それと昼間のパトロールカーの警官の動きが気になって、岩手県境を越えて来たのである。

離れの部屋の下を流れる水音を聞きながら、宇野は浅い睡眠に落ちていった。東北の晩秋は、朝晩の冷え込みは特にきつい。それも4時ともなれば尚更である。車のエンジンをかけるがやはり冷えている。パネルには外気は3度と表示されている。車内を暖め、ライトをあげて宿を後にした。

東北自動車道に乗り北へ向かう。盛岡から秋田と青森の県境に位置する十和田まで160キロの距離である。ゆっくり走っても2時間あれば到着するだろう。途中松尾八幡平で朝食をとる。トランクを開けて、ゴルフに行く時いつも持参している厚手の雨具をはおった。

着の身着のままの姿では東北の気候は余りにも冷たすぎた。しかしその冷たさが彼の脳細胞を覚醒させてもくれる。今となっては追われる身である事を宇野自身は容認出来ていた。自分にはこれ以上失う物はもう何もなかったからである。

宇野はいよいよ魂の底からの呼びかけにこたえ、一路『迷ヶ平』を目指した。既に歯車は動き出していた。それはスパイラル形状の複雑さを秘めながら、音をたてて噛み合って行く。あの白いセダンの男達の蜘蛛の巣に吸い寄せられる蝶のようにであったのかも知れない。

『迷ヶ平』『十和利山』『カタカムナ』この不思議な連鎖が何を指し示しているというのか。そしてそこに顕れた見知らぬ一人の女性の正体とは?

2012年2月10日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・白瀬川の化石 <標高281m>

【宝塚市逆瀬台・白瀬川で発見した化石】



2009.9 大水のでたあと白瀬川の川床で発見した植物の化石

この川はボクのミヤマアカネ調査のホームグランド

水成岩が露出している場所が数カ所あり 

きっと化石がでると探し続けていました

ケヤキかなにかの葉の化石で10万年ほど前の地層から

見つかったものだとの大学の先生の所見でした

大切なボクの宝物の一つです

Report by Jun



2012年2月9日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高280m>

連載小説 【あり地獄】 8

『おい、奴は今どこを走っている?』『ちょっと待ってくださいよ、盛岡の手前あたりです』『山道に入っても分かるのだろうな』『勿論です、GPSで追跡しています』。彼らは昨夜の内に、宇野の車に衛星追跡装置をセットしていた。


宇野はそのような事は全く知らない。半信半疑で彼らを撒いてしまったと思っていたのだ。迷ヶ平まで行けばまず安心だ。こんな辺鄙な所までは追って来ないだろうと確信していた。会津若松から十和田まで460kmはあるだろう。途中盛岡で高速道路を降りる。

その頃男達も少し遅れてゲートを出た。白いセダン、黒ずくめの男二人であった。宇野信二は精神的にも肉体的にも疲労困憊であった。温泉にでもつかって少し眠りたかった。彼は山間部に向かって車を走らせて行く。

どこかに、温泉付きの町営休憩所のようなものがあるだろうか。盛岡市は清流北上川と中津川に沿って拡がる風光明媚な土地である。岩手県の県庁所在地であり、石川啄木や宮沢賢治が有名である。宇野信二は雫石温泉へと車を走らせている。以前この地方出身の男と仕事をしたことがあった。酒を飲むと彼の田舎の雫石の話をよく聞かされたものであった。

そこに国見温泉があるとその友人は言った。珍しい緑の濁り湯、是非一度訪ねたらいいと薦めてくれた。もう二十年も前の事であった。疲れ切った脳細胞がやっと手繰り寄せた記憶であった。立ち寄ってみようと思った。とあるこじんまりとした和風旅館に車を止めた。少し休憩出来るか問うてみた。女将らしい女性が快く引き受けてくれた。純朴な岩手人の優しさにいっとき心が安らぐ。


下に鶯宿川の清流が音をたてて流れている。周りはもう紅葉に染まりきっている。川の中の露天風呂に降りていった。宇野は悩みや苦しみのない精神状態の時に、この地を訪れていたらどんなにか良かっただろうかと思った。しばらくして気を取り直してこれからの逃避行を考えたとき、今の休息はなくてはならぬ重要な時間だと確信した。


その頃白いセダンは盛岡の町に入っていた。車を止めて一人の男が携帯電話で長い話をしている。その横を岩手県警のパトロールカーがゆっくりとすり抜けて行く。警官が無線機を取り上げてどこかに連絡をした。白いセダンを運転する男が何かに気づいたのか、急に発進してすぐに右折、パトカーの視界から消えていった。

宇野は緑の湯の中でこれまで自分の上に降り掛かってきた問題を整理して考えていた。脳細胞が少しづつ活性化してきているようだ。自分は今回の私立校の不正入学については、テレビでいっているような組織的不正入学とは関係を持っていない。あえて言える事は、あの日クラブで50万円の現金を受け取った事だ。

これについては軽率のそしりを真逃れる事は出来ない。『汚職』と言われてもやむを得ない。しかし今も手つかずでそれは保管している。早く返しておけばよかったと後悔していた。

自分を追ってきている黒い影は一体何物だろうか。少なくともクラブで会った龍の彫りものを持った男達でない事は確かだった。それは宇野の直感がそう判断していた。それが一層また心に重たい不安感と恐怖心を醸成していた。

そんな事を考えている内に湯の中でまどろんでしまっていた。どのくらい時間が経過したのだろうか。あたりにはもう夕暮れが迫っている。冷たい風が川面を流れてススキの穂が一層秋の深まりを感じさせている。

あと一ヶ月もすれば、この辺りにも雪が舞うのであろう。彼は少し軽くなった体で旅館まで続く階段を上って行った。今夜はこの旅館に一泊しようと心に決めていた。露天の湯船の中で、生きていく勇気が少し戻ってきたのを確かに感じていた。昔の友人が与えてくれた貴重な時間であった。

宿の女将は、なかなか帰って来ない宇野を心配していた。女将の直感で、ひょっとすると彼が自殺願望者かも知れないと感じていたのである。けっしてそれは間違ってはいなかった。宇野は、このまま死んでしまえば楽になるだろうと考えた事も何度かあった。その気持ちを払拭させたのは、『迷ヶ平』が彼を呼んでいるように思えたその一点からである。なんとしても『迷ヶ平』へ行こうと。

女将に今夜の宿を借りる事を告げて、奥の離れの部屋に傷心の旅装を解いた。もう掘り炬燵に火が入っている。宇野は、切断していた携帯のメールを開けた。そこに彼が見た驚愕のメッセージとは・・・・。

2012年2月8日水曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・2ヶ月経てば <標高279m>


また強烈な寒波が列島に襲いかかってきた

昨晩から朝までの積雪は50センチ

この大雪はまだ3日は続くとの予測だ

とは言ってもあと2ヶ月もすればこんな日がきっと



2012年2月7日火曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高278m>

連載小説【あり地獄】7

三階でエレベーターが止まる、それも朝5時である。ドアーが開いて誰かが乗り込んで来た。宇野はボックスの右の方に体を向けて、目を閉じていた。エレベーターが動き出して一階のフロアーに止まる。宇野が体を捩って目を開けた時、そこには乗ってきたはずの何者かの姿はなかった。確かに人の気配がしてボックス内部の温度が幽かに変化したのも感じていた。


カウンターのベルを押す。カーテン越しに人の動く気配がしてホテルマンが現れた。眠そうな目で宇野を見た。『勘定を頼む』。男がパソコンを叩くと一枚のシートがプリントアウトされる。支払いを済ませてホテルを出る。その時、道路を隔てた正面のホテルの一室の電気が消えた。宇野は昨晩の事を思い出して駐車場まで疾走した。車に乗り込んで一気にアクセルを踏む。タイヤが路面を蹴る様な音とともに右折して郡山JTC方面に向かう。車は磐梯河東を過ぎ、猪苗代磐梯高原へと入った。磐梯熱海を越えて、郡山JTCより夜の道を東北道に走らせた。

あの時エレベーターに乗って来たのは、自分を追って来ている一味なんだろうか。せめて背格好だけでも見ておけばと後悔したが、そんな余裕は微塵もなかったのである。

朝の6時、まだ外は暗い。今日は一体どこへ行けば良いというのだろうか。その時宇野は昔のある一つの事を思い出していた。それは彼が三十代半ばの頃、ふと立ち寄った本屋で一冊の本を見つけた事にさかのぼる。それはオカルトの本とも思えたし、また超古代文明の謎といった分野の『ものの本』とも思えた。『カタカムナ文明の謎』と題された本を飛ばし読みしていた時、彼の意識の中になんとも言えない、幻惑的な波動が揺れ動くのを感じて衝動的に購入したのである。

それからというものは、『カタカムナ』にどっぷりと嵌ってしまったのだ。それは今から二万年ほど前、京阪神地方(六甲連山がつらなる辺り)に『カタカムナ人』が住んでいたと言う。彼らには素晴らしい能力があった。それは巨大な石を組んで建造物を拵える能力である。その本によると、エジプトのピラミッドの建設にも『カタカムナ人』の関与と技術指導がなされていたとの事である。

そして彼らこそ、日本の国に現在使われている、『カタカナ文字』の発明者でもあったと言うのである。宇野も始めは半信半疑で読んでいたが、いつのまにか、不思議とそう思えてきたのであった。『カタカムナ人』の信仰の対象になっていた山が、今、兵庫県西宮市にある『甲山』だと言う。それは、『神体山』と呼ばれ、研究者達は山そのものが人口のピラミッドだと考えているのである。

その『甲山』と同じ形(お椀を伏せたような半丸型)をした山が日本にもう一つあるというのだ。それは、『カタカムナ人』の心の故郷、秋田県と青森県の境にある『十和利山』なのである。その場所こそが『迷ヶ平』(まよがたい)なのであった。今、宇野を見えない糸で引き寄せようとしているのは、果たして『カタカムナ』の呼び声なのだろうか。言いようのない焦燥感に苛まれつつ、車はひたすら北へと向かう。はるか遠くの山が白く光っている。

2012年2月6日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・不思議な影 <標高277m>


雪景色を撮った写真の中に 正体不明の物体の影が・・・

クジラのようでもあるが 雪上にいるはずがない

周りを確認したがそれらしい物体は見当たらない

UFOの影が映り込んだものか?

不思議な影を追って 今日も自然派カメラマンは行く

Report by Jun

2012年2月5日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ ・言葉のアーカイブス <標高276m>

連載小説【あり地獄】6

逃げても逃げても追いかけてくる影のように、心の中に黒いカビの様なものがひろがっていく。眠る事も恐ろしいが、現(うつつ)には、見えない相手がヒタヒタとジタジタと迫ってくるようで・・・・。


外を走る車のクラクションの音がかすかに聞こえてくる。宇野はベッドに体を横たえて、まぶたを閉じた。つい1ヶ月前までは平穏な日々が続いていたように思える。あの日たまたま町で昔の知り合いに出会った。そして誘われて入ったクラブが事の始まりのような気がしていたが、実際はもう少し前、ある代議士のパーテー会場で紹介を受けた経営者風の男性と、その会が終わったあと飲みに行った事が発端であったように思う。

どうもその席で、私立校の入試の話が出たような記憶が残っている。当時宇野は教育に関する部会の世話人の一人であった。そんな関係でその時少なからずアドバイスをしたように覚えているが、酒のせいで何を話したのかはほとんど記憶にない。余りよく知らない人と酒の席を共にするのはリスクの高いことである。

そんな事は十二分に分かってはいたのだが、雰囲気と勢いがまともな思考を混乱させたのだ。今から考えれば、周りがチヤホヤするのに一種の傲り、天狗になっていたのは事実であった。そこに隙があった。得手して黒い誘惑はそんな人間の弱さの中に知らず知らずのうちに忍び寄ってくるのだ。

とりとめのない事を考えながら軽い睡眠状態に入っていった。どれほど時間が経ったのだろうか。何者かが迫ってくるのがかすかに感じられた。合い鍵でドアを開けて、暗闇の中を宇野のベッドに近づいてくる。手には先の尖った鋭いナイフを隠し持っている。宇野はそれに気づいているのだが、体が硬直化してどうしても動けない。

男の顔がぼんやりと見える距離まで迫って来ていた。男は手に持ったナイフを振りかざして一気に宇野の胸に振り下ろした。意識が遠のいて行く。不思議と痛覚は感じられない。ただ薄れて行く意識の中でキラキラと火花が散っている。その奥から女性の顔が浮かび上がる。彼女は細い手を差し伸べている。

『さあこっちよ!』と手招きしているような仕草である。その女性はわずか35歳で自分の元を離れていった母の姿であった。『母さん!』と叫んで追いかけようとしたが、母の姿は闇の中に消え去っていく。

う〜ん、と一声上げた時、目が覚めたのである。夢であった。汗がシーツにまで浸み通ってシャツも何もかもが水を被ったようであった。バスルームに入りシャワーを浴びる。心臓がまだ不規則に踊っている。宇野は何気なく自分の胸に目をやった。さっきナイフで刺された辺りを見た。なんとそこには、紛れも無くどす黒い一筋の線が残っているではないか。それはまるで傷を縫合した痕のような、おぞましい形であった。

時間はすでに朝の4時半をまわっている。急いで出立の準備をしてドアーのロックを解除し、静かにノブを回す。少しひらいたドアーの隙間から廊下を見る。誰もいない。時間は朝の5時前である、それは当然であった。エレベーターまで小走りに進む。ボタンを押すが上がって来るまでが特に長く感じられる。扉が開いた、誰も乗っていない、ホッとする。扉が閉まって下っていく。三階で突然エレベーターが止まった。誰かが乗ってくる・・・宇野は凍り付いたような恐怖を感じて、扉が開いた時、目を閉じて呼吸を止めた。