2012年11月16日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 5 <標高494m>



さて今頃、ジャズパブ維摩ではどんな事が起こっているのでしょうか。ジャモウは何をしているのでしょうか。そっと覗いて見ましょうか。

実はこの庵主様、不思議な霊能力と言うのか、神通力と言うのか『木』と話をしたり、犬や猫の気持ちが理解できるらしいのである。先日も六甲山の森林植物園に出かけたお客の一人が、途中大きな木に抱きついている庵主様の姿を見たと話してくれた。

『だけどじゃ、今夜は冷えるきに、ここからは出んと、こやつは言うとる』。その瞬間、ジャモウがニコッと笑ったのを見たのは庵主様だけであった。もうジャモウはその膝に顔を擦りつけている。相変わらずよだれが糸を引いている。

疾風真麻さんと庵主様が、止まり木に並んで腰を掛けている。ビールを少しだけ飲んでハヤマさんは結構口が滑らかである。ちょっと二人の会話を聴いてみましょうか。

『庵主様、来年だけど、今の素人劇団でミュージカルをする事になったの』『へ〜ミュージカルねえ、どんなお芝居?』『まだ、決まっていないわ、来年の秋だから。でももうそろそろ決めないと・・・』そう言ってハヤマさんは、残ったグラスのビールを飲んだ。

『庵主様、なにか良いアイデアないかしら?』『そのミュージカルのかね? 私に言ったってねえ〜』『でもどなたかから聞いたわ。庵主様は、物書きだって』『誰が、そんな事』 と庵主様は当惑気味である。でもそれは、当たらずと言えども遠からずである。私も知り合いの新聞社のある人から聞いた事があった。なんでもある大学の客員講師をしていたとか。しかしそれ以上の事は何も知らない。

『ところで庵主様、お住まいはどちらですの?』『う〜ん、私の隠れ家かね?』『隠れ家って?』『ハヤマさん、私には決まった家はないんじゃよ』『ブルーテントですか?』 庵主様は笑いながら、白い髭に手を当てた。ジャモウがひとつクシャミをした。どうやら、ストーブの火が落ちたらしい。私はジャモウを抱き上げて、カウンターの椅子に移した。クヌギの薪束から太目の木を二本、ストーブに放り込んだ。

パ〜ッと周りが明るくなる。ジャモウはもう自分の定席に飛び移っている。それにしてもなんともしなやかな身のこなしである。確かに猫のジャンプ力には驚嘆させられる。体長の十倍くらいの塀にも、一伸びの跳躍で飛び上るくらいは朝飯前である。ぐうたらジャモウもその能力はまだ衰えてはいないらしい。

『ブルーテントじゃないが、あちこちから風や月の光は入って来るな』『格好いいじゃ〜ん。それって京都の嵯峨野にある落柿舎みたいなの?』『ホッホッホ、落柿舎か、ハヤマさんなかなかの風流人じゃな』 と庵主様は感心している。左手指が、ロイヤルコペンハーゲンのジングラスに追加を求めて音を立てた。今回はジャモウは目を開けずに、薪ストーブの暖かさの中で、庵主様の『隠れ家』の夢を見ているようだ。

『いやあ、どなたはんも今晩は。それにしてもよう冷えまんな。こりゃ半端やおまへんで』 そう言いながら飛び込んで来たのは、この頃ちょっと売れ出した落語家『新在家 甲六』(しんざいけこうろく)さんである。今日も大阪千日前の寄席の客席整理係の仕事が済んで神戸に帰って来たとか。冷え切って、細面の顔が青白い。

またこんな変なのが現れましたよ。これから今夜のクリスマスイブ一体どうなるのでしょうね。ウウ〜〜寒う〜、おしっこ、おしっこ。ではまた、ジャモネンコロ(ジャモウ語で、おやすみ)。


Imagined by Jun



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