2012年12月6日木曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 10 <標高508m>



 平成18年の新年が何事もなく明けて、『ジャズパブ維摩』は一月七日、七草粥を食べる日の夕方よりの初商いであった。いの一番にやってきたのは、三味線屋の、蓮見辰ノ進こと通称、『辰兄い』であった。なんと羽織袴でのお出ましである。

『いっしゅはん、明けましておめでとうございます。今年も何とぞ宜しく』と律儀な挨拶はさすが年の甲である。『蓮見さん、おめでとうございます。こちらこそ宜しく』と私。その間ジャモウはしらんぷりを決め込んでいる。辰兄いがジャモウの傍にやって来たが、タヌキ寝入りならぬ、ニャンコ寝入りをしている。毎年の事であるが、年初の商いには一斗樽を開けて皆様に振る舞っている『維摩』である。

今年も大阪池田郷の銘酒、『呉春』の薦被りを用意致しました。少しだけこの『呉春』についてご紹介しておきましょう。蔵元は、呉春酒造株式会社です。落語『池田のしし買い』で有名な『池田郷』で仕込まれる伝承の逸品であります。

『呉春』の『呉』は、池田の古い雅称『呉服の里』に由来するそうです。また、『春』は、中国の唐代の通語で『酒』を意味します。つまり『呉春』とは、『池田の酒』の意味なんであります。また池田の酒は『下り酒』として江戸時代に重宝され、銘酒として名を馳せました。下り酒とは、関西から関東に入ってきた酒の事を指します。今日の鉄道は、関西から東京へ行く列車は『のぼり』それと反対は『下り』と言っています。が江戸時代は京都に天皇がおられた関係で位置関係は今とは反対になります。則ち関西から関東は『下り』、その反対が『上り』となるのです。日本人の繊細な心の表すところでしょう。

この『呉春』は小説家、谷崎潤一郎が好きだった酒として知られています。蔵元の西田氏は、谷崎潤一郎と個人的な交友があり、『西田さん、呉春持ってきて』とよく頼まれたそうです。『細雪』や『卍』を執筆する谷崎氏の傍らには、大好きな『呉春』が置かれていたようです。五月山からの伏流水で仕込み、甘からず、辛からず、五味の調和した酒造りが基本として酒を醸すのです。

少し長くなりましたが、当『維摩』のお奨めの酒であります。新年の鏡割りは『春』の字を頂いた、『呉春』をおいて他にありません。そう言っておりましたところへやって参りましたのは『庵主様』。

 『庵主様、明けましておめでとうございます』 。私と辰っあんが揃って新年のご挨拶をしました。今日の庵主様の出で立ちは、結城紬の着物の上に、黒のトンビを羽織って、焦げ茶色のソフトを被っておられる。まるで大正時代のご隠居のような面持ちがします。ジャモウがのっそりと起きあがって、庵主様のもとへ。

『ジャモウ、おめでとう。今年も宜しくな』 そう言って懐からのし袋を取りだし、ジャモウの胴に紐で結わえ付ける。背中に白い袋を背負ったジャモウは私(主人)のところへ歩いて来る。毎年の事で、ネコと言えどもその所作を覚えているのである。

『いつもジャモウにまでお心使い頂き誠に有り難うございます』と、私はお礼を言ってその紐をはずす。そして横手の帽子掛のところの『ジャモウの私物』と書かれたフックに吊した。

良い雰囲気の今年のお正月であります。常連さん、皆さん元気で初商いの場にお立ち寄りになるのをお待ちします。今年もここ『ジャズパブ維摩』に、泣き笑い人生双六の賽が振られました。

ジャモウは今日も庵主様のお膝の上で心地良さそうに居眠りをしています。ジャロメナイス(ジャモウ語でこの人好き)。



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