2012年9月16日日曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・北信濃旅情 <標高 449m>


【野尻湖畔に秋立ちて】


北信濃の保養地野尻湖畔には、初秋の風の通り道にまるで夏が置き忘れていったような、一握りの木蔭が寂しそうに居座っているのも中々面白い。湖に面したホテルのカフェテラスには幾組かのカップルたちが、色鮮やかなカクテルや、なんとかパフェといったスイーツを楽しみながら、ゆっくりと滑って行く観光船に手を振ったりカメラを構えながらも、過ぎていった夏に心を巡らせているようだ。



湖面を周遊する船の甲板では、ターコイズブルーの湖水を見つめながら、今宵の泊まりに思いを寄せて、賑やかな語らいの中にも密やかな期待に胸を躍らせているかのように見える

森の中にたてられた瀟洒なホテルやペンションを眺めながらしばらく歩いて行くと、以前小説の舞台にした小さな教会の前に出た。今ではあまり訪れる人がいないのか、秋の野草が所狭しと繁茂している。少し歩いた裏道の奥には、大正時代か昭和初期に、この地で亡くなった宣教師の墓が苔むしてたっていた。隣には彼の奥さんの墓だろうか、二つが並ぶように立っているのが哀しくも寂しかった。

もう夕暮れが近づいていた。私はリュックを背負って教会を後にした。下って行く道ばたには白い秋明菊が咲き乱れていた。それはまるで宣教師夫妻の魂を慰めるかのように墓所の方に頭を垂れていたのがいつまでも心に残っている。

(庵主の思いで日記:秋によせて)

0 件のコメント:

コメントを投稿