2013年6月3日月曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・ジャズパブ維摩 46 <標高 631 m>



その日の夜、庵主様と誠さんが「維摩」のドアーを開けたのは、ヴィルレイの柱時計が9時を告げた頃でした。簡単にビールで喉を潤して、私は早速今朝の兵庫県警の刑事が訪ねてきた下りから一通りの説明をしたのです。

『そうですか、泊がそんな事件を・・・』。泊雄二(とまりゆうじ)、新谷暁子の前夫である。『そんなに凶暴な男じゃったのか?』と庵主様。

『いや〜、普段は大人しいのですが、なにか突然切れると言うか、ある時も親戚が集まって飲んでいたのですが、突然怒り出して・・・』『最近多いんだな、自分中心でなければ面白くないちゅう輩が』。庵主様の最近の人間分析は鋭い。

『そこで、あきちゃんにどう説明するかですが』と私。『泊が今どこにいるかも判らないのに、不安感ばかり煽ってもな・・・』と、兄のまこっちゃんがぼそっと呟いた。庵主様がビールをぐっと飲み干してこう話された。

『結婚式は、1123日だな。ちょっと早いが、浜ちゃんにこの話を説明してすぐにでも同棲させよう。もう二人は大人なんだし、結婚もするんだからな』。なるほど、浜ちゃんはデイトレーダーとして自宅で仕事が出来るんだし、暁子さんも夫になる男性が傍にいる安心感があるというもの。

 『で、何処に住むんですか?』と私。『なんでも今、ばあさんと一緒にいて、結構家は広いらしい。結婚すると当然そのばあさんと同居じゃろうな』『あきちゃんはOKなの?』『はい、私もそうですが、暁子は両親を早く亡くし、家族の愛を知らないので、なんの問題もなく受け入れたようです』と、まこっちゃんが話す。

そうと決まれば早速引っ越し準備だ。今晩、まこっちゃんから庵主様の提案を妹の暁子には説明する。浜ちゃんには、庵主様がちょっと早めの同居の話をつける。暁子をさがして訪ねて来るかも知れない殺人未遂犯人「泊 雄二」に対する、それが最善の防御策であった。

ジャモウとランジェは安心したのか、心地よい寝息を立てて夢の世界をさまよっている。私は明日、県警の安永刑事に連絡をして、今夜の事を説明する役になった。

さて浜ちゃんは、庵主様より一連の事情を説明してもらい驚きはしたそうですが、何としても暁子さんは自分の手で守らねばならないと言ったそうな。暁子さんは何とも複雑な思いだったようですが、早速引っ越しの準備にとりかかったのです。

そんなこんなで1112日(日)に、まずはお輿入れと決まった。浜ちゃんちの婆さんが、いやに張り切って、まるで自分が結婚するかのような入れ込みようだとか。暁子さんの引っ越し先はごく一部の人間しか知らない。

ちょうどその頃、JR三宮駅を出た一人の男、昌(しょう)ちゃん帽を深く被って、グレーのジャンパーとズボンの身なり。人混みの中をすり抜けるようにして三宮高架下商店街へと紛れ込んで・・・消えた。

1115日、庵主様作・演出ミュージカル『裏町に燃えて』が神戸アマチュア劇団『劇団海峡』によって初日を迎える。主演の疾風真麻さん、演出助手、安曇川麻沙美さん達も最後の追い込みの練習に余念がない。


2 件のコメント:

  1. 離婚した新谷暁子の前夫である泊 雄二という凶暴な男が何か
    危害を与えそうな雰囲気ですが、是非かよわい彼女に危害が与えられないようドキドキしながら心配しています。  

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  2. 小川 洋帆 様

    お早うございます。お元気でしょうか。
    いいお天気が続きますね。 山の雪もほぼ解けて、緑濃き山容が美しいですよ。

    山裾をゆっくりと歩いて、トンボや蝶を探しています。ではまた。

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