2014年11月29日土曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・【男達の黄昏・・そして今(11)】(標高 1028 m)


【男達の黄昏・・そして今(11)】

 『もう、お構いなく。今日は先生にご相談があってまいったのですよ。』と哲じい。『キョウハ、オールメンバーデ、イッタイナニガアッタノデスカ?』と先生。『じつは・・・』と切り出して、哲じいが今日までの『黄昏斑』の経験してきた事の流れを説明したのです。

『オオ、テリブル!』と言ったのは傍で聞いていた奥様。庭で寝ていた大きなドーベルマンがのっそり起きあがって縁側に姿を現した。その面構えには『そんな泥棒ワシがひとにらみですくみ上がらせてやるわい』と言っている様であります。

 周さんなどは、こいつなら泥棒も恐ろしくて近づかないだろうと確信ににた気持ちでした。ドーベルマンはそのまま石の上で寝てしまいました。それは本当に寝ているのです。周さんは、さっきの確信が音を立てて崩れて行くのを感じて、愕然としたのだと後で話しています。早速、周さんが夕陽丘のマップを広げました。そして泥棒に入られた家の相関図を指し示しながら、『X』の意味するものを話し出しました。どうやら犯人の次のターゲットはこの『X』の文字の交差する当たりの家がそうだと推測する事を。

『クエスチョン、オーケー?』と先生。『ソノスイリガ、アッテイルカドウカハワカリマセンガ、ターゲットガ、マイホームダトハオモエマセンガ。』もっともな疑問、質問であります。他にも狙われている家があるのでは。『その通りです。まだ先生のお宅が狙われていると結論は出せません。しかしここに一つの重要なファクターがあるのですよ』と競馬予想屋の周さんが自信を持って立ち上がった。

 周さんはある一枚の資料をファイルより取り出しました。そこに書かれていたのは、今まで被害にあった家に飼われていた犬の種類でした。この数日間で彼は足を運んで聞き取り調査をやっていたのです。ところで中央競馬の話で恐縮ですが、先日の『桜花賞』のあの一着の馬。まずどの新聞も有力視していないのに周さんのコラム、『馬に聞け』の中にはしっかりと紹介してあるのでした。そこにはこんな文章が・・・。『今年の桜花賞は3強でほぼ決まりとの感がしますが、私はちょっと「?マーク」なんです。このライムライトという馬、気になりますね。血統的にはそう重視出来ないのですが、もう少しで地方競馬に売られる寸前、今の馬主に買われた強運の少女。私の好きなタイプです。ではまた』こうコメントされています。

 じっくり、しっかり調べ上げる周さんのスタイル、このようにして彼が絞り込んできた内の一つのファクター、それが犬の種類だったのです。13軒のお宅に飼われていた犬は、No.1にポインター、ビーグルなどの猟犬が5頭。日本犬が3頭、コリー犬が2頭、あとセパード、ブルドッグ、シベリアンハスキーの合計13頭です。どちらかと言うと大型犬、強いタイプの犬が多いのです。この関係から推理するとこの犯人は出来るだけ大きい、強い犬の飼われている家をターゲットにしているのではないか。ひょっとしたら愉快犯なのかも知れない。

先生宅の黒光りのしているドーベルマン、これはまこと凄い犬であります。ちょっと見いでは、黒豹(くろひょう)かと見間違えるほどの精悍さ。泥棒なんざ一睨みで間違いなく竦み上がる恐ろしさであります。このご近所に、大きな犬を飼っていて、塀が巡らされていて、そして昼間留守になるお宅は、どう見てもリチャード先生をおいて他にないのです。これはあくまで次回のターゲットに成りうる家の絞り込みであります。次回に侵入されるだろう家の一候補である訳で、その次もしくはまだ先の事かも知れません。でも早く犯人を召し捕らねば安心して生活が出来ないのです。

 そして徳さんは、その大きなリビングの中にあるミッキーマウスやポパイ、スヌーピー達の縫いぐるみが並んでいるのを見た時、これは犯人にとって喉から手が出るほど欲しいに違いないと思ったのでした。とは言え、リチャード先生のお宅に縫いぐるみがあるなどという事は犯人には分からないでしょう。外からはみえないのですから。たまたま偶然に侵入した家の中にそれらがあった、という訳なのでありましょう。

その時周さんは、ある事に気付いてあっと声を上げました。そしてこの事はリチャード先生の前では話さなかったのですが、後で彼の推理の一つの柱としてみんなの前に投げかけられたのでありました。

『エブリバデイ、アナタガタノオッシャルコト、アイアンダスタンドデス。』そう言って先生はじっと腕組みをしています。奥さんは不安そうな面持ちで先生の様子を眺めています。『タソガレ・パーテイーノ、ミナサマ、オネガイガアリマス。』『はい、何でもおっしゃって下さい』と哲じい。『ソレデハ、デス イズ・マイリクエストデス』そう前置きして先生は黄昏斑のみんなにこう話したのでした。


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