2014年11月7日金曜日

酔花 風酔 自然法爾のおきどころ・【男達の黄昏・・そして今(5)】(標高 1012 m)


【男達の黄昏・・そして今(5)】

 『まあ、そんな事かも知れんので鑑識もやって来て詳しく調べましたんや』『なんか分かりましたか』と鶴さん。『ええ、どうやら手口は今、ここらを荒らしている新興住宅地専門の悪盗やないかという事までは・・・』。『わたいとこら入っても何にも盗るもんないよって連中も、とばして行きよるで』と、沼ちゃんが苦笑いをして言った。『入ったら最後、なんか置いて帰らなあかんぐらい何にも無いな、あんたとこは』と、哲じいがつっこんだ。『そんなはっきり言いなはんな、どもならんな』『なんかあったら、交番まで宜しく』。そう言って島田巡査は、気おつけ、敬礼をして自転車に乗って坂を下って行った。

 高校生の一団が、なにやら笑いながら店の前を通って行く。休日のクラブ活動らしい。『明石屋』の2軒東に、月に二回のお店が出る。第一、第三日曜日、午前11時から地元で採れた野菜やら、乾物などが並ぶ。これは近所の主婦の方々がやっているらしい。収益金は学校や、幼稚園に運動の器具などを寄贈する原資にしている。まあボランテア活動である。街の価格より2割は安いので結構はやっているらしい。寿司屋の鶴さんも、ここで玉子などを購入している。今日も店が開いて、近所の奥さん連中や爺さん婆さんが買いに来ている。ここから奥に入った山間部でシイタケ栽培などをしているので、それらも並ぶようだ。また、山の中で炭を焼いている御仁がいて結構上質の木炭や竹を焼いた「竹炭」なども出てくる。それが案外良くはけるらしい。最近火鉢や,かんてき(七輪)でお湯を沸かしたり、煮炊きをする人が増えてきている様だ。スローライフや節電が指向されているのだろう。

 ビールをあけながら、哲じいが言った。『どや、今度ここいらを荒らしている泥やんを捕まえてみいひんか?』『ええっ!わしらがでっか』と、徳さんが驚いたように言った。『警察でも、簡単やないのにそら無理ちゃうか?』と沼ちゃんがあきれたような顔をして言った。『考えてみ、一回や二回やあらへんねで、入り易い家があるんや。今までのデータを捨うたら、次のターゲットが絞れるかも知れへんで』『哲じいの言うの、判るわ。ターゲット絞り込んで、張り込みや!』と、徳さんが入れ込んだ調子でのたもうた。

 『よっしゃ、そうと決まったら深沢の周さん呼ぼうや』『周さんを?』『せや、あのせんせ、競馬のプロでっせ』『ドロボと馬、なんの関係がおまんの?』『データ分析のせんせ、ちゅう訳や』。『なるほど、絞り込みの業師ちゅうこっちゃな』と、腕組みをしながら哲じいがしたり顔で言った。

 暫くすると、周さんと呼ばれる男が暖簾を分けて入ってきた。深沢周八、60歳。今日も朝から『競馬』の予想に没頭していたらしい。自分のホームページでコラムを書いているとか。これで結構ファンが付いているのである。


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